ラスフィードとバルスカイ

 イメージはすでに固まっている。どちらも風属性に適性の高い素材なので柄には翼をモチーフに形状を整えるのだが、並べる事で両翼が作り出される。

 この辺りはポーラ騎士団長とオレリア隊長に作ったお揃いの剣に通ずるものがある。

 刀身だが、そこは素材の色を十分に活かした色合いにするつもりだ。

 ライトストーンは以前にも打った通りに美しい翠色の刀身を。そしてバルウイングは珍しい色合いをしており白と翠が交ざり合った刀身を作る。

 現状の双剣よりも軽くなってしまうが、そこはマギドさんに慣れてもらう必要がある。

 まあ、これから長い付き合いになるわけだし問題はないだろう。


「昨日も見たけど、いまだに信じられないなぁ」

「マギドはこれからずっと見ていくわけだし、慣れておかないとなぁ」

「……そうですよね」


 何やらマギドさんが呟いているが、上手くギャレオさんが説得してくれたようだ。……説得、なんだよな?

 まあ、今は鍛冶に集中するべきだな。

 それにしても不思議なものだ。昔は鍛冶に集中すると周りも見えなくなっていたのだが、今は集中していても周りが良く見えているし、声も聞こえてくる。

 最近はここまで人に見られながらの鍛冶なんて少なかったから、成長が実感できるな。


「す、すみません、遅くなりました!」


 カズチも起きてきたみたいだな。


「あぁ、構わないよ。昨日は二つの素材を錬成してくれたのだろう? コープス君から聞いているよ」

「おぉっ! そうだったのですか!」

「ありがとうございます」

「今日はマギド様の素材……あー、フレアイーターの素材……なんだったなぁ」


 なんだろう、今の言い方は。僕が無理難題を吹っかけているみたいじゃないか。

 カズチならできると思っているからお願いしているだけで、できないならお願いなんてしないのだ。


「カズチ! フレアイーターは預けてたよね!」

「あぁ。……それじゃあ、部屋でやって来るから。時間はまだあるんだよな?」

「うん! まだ、一本目だからね!」

「了解。お前も三本目には休むだろうし、ゆっくりやっとくよ」

「お願いね!」


 僕たちのやり取りを横で聞いていた二人が何やら呆けた顔をしている。


「……フレアイーターって、上級魔獣の素材なんですよね?」

「……それを当たり前のようにやっとくって……彼も、規格外なのだな」


 そう、カズチも規格外の凄腕錬成師なのだ。

 特にリューネさんが規格外。万能人間三号なんだからね。

 常識人はルルとフローラさんくらいか。僕も常識人枠に収まりたいけど……うん、さすがにそれは無理だって事はもう理解しているよ。


「よし……そろそろ、いいかな?」


 しっかりと成形ができたところで槌を置いて両手で鋏を掴み、ライトストーンで作った剣を桶の中の水に沈めた。

 光はアダマンタイトを使用した時よりは少なくなっていたが、それでも十分な光が発生してくれたので超一級品になってくれているはずだ。


「……これもおかしな話ですよねぇ」

「……だよなぁ」

「はははっ! 私はもう慣れたものだよ」


 笑っているのはユージリオさんだ。まあ、庭で二回、騎士団の稽古場で一回見ているので慣れているのだろう。

 そう考えると、二人だって二回は見ているんだから慣れてくれていいと思う。二回と三回ではそこまで差はないはずだしな。

 ……まあ、年の功って事かな?


「……よし、光が収まったな」


 ゆっくりと剣を持ちあげると、そこには美しい翠色が光に反射する双剣の片割れが出来上がっていた。

 僕の見た限りでも超一級品に仕上がっている。後はマギドさんがどう思うかだけど。


「マギドさん。まだ一本だけですけど、見てもらってもいいですか?」

「……」

「……マギドさん?」

「え? あ、問題ありません!」

「へ? でも、ちゃんと見てもらわないと」

「で、ですよね! すみません……その、お借りしてもいいですか?」

「お借りって言うか、マギドさんの剣なんですけどね」


 僕は苦笑しながら片割れの剣を手渡した。

 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたような気もしたが、気のせいだろうか。


「……これが……俺の剣に、なるのか?」

「問題はなさそうですか?」

「もちろんだ! ……です」

「あはは。言い直さなくてもいいですよ。普段の感じでお願いします」

「……あ、あぁ、分かった」


 問題はなさそうで何よりだ。

 それじゃあ、次はバルウイングで作るもう片割れの方だな。と言うわけで、今回も初めての素材で作るのだ。

 ……フレアイーターの素材も初めてだなぁ、うん。

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