双剣と直剣
一日ぐっすりと休ませてもらった翌日、僕はマギドさんとギャレオさんの剣を打つ事になっている。
だが、俺の横のベッドではカズチがまだ眠っていた。
「……ありがとう、カズチ」
何故お礼を口にしたかと言えば、ベッドの横にある机には昨晩カズチが錬成してくれた二つの素材が置かれているからだ。
昨日、ライオネル家に帰宅した後、少し休んでからすぐに錬成をしてくれた。
マギドさんが双剣であるため、都合的に三本の剣を打たなければならない。一日で三つの錬成をするのは難しいと判断したのだ。
質の低い素材であればそれも可能だが二人共騎士として一流であり、そんじょそこらの素材で武器を作っても使ってはくれないだろう。
だからこそ、二人が扱える最高の素材で剣を打たなければならなかった。
「……よし、行こうかな」
午前中に二人が訪れることになっている。それまでにはカズチも起きてくるだろうけど、僕は僕でやれる事をやっておかなければならない。
部屋を静かに出て廊下を進み、リビングに出るとすでにユージリオさんが待っていてくれた。
「庭に行くのだろう?」
「……はい、ありがとうございます」
ここまで好きにやらせてもらえて、本当にありがたい。というか……やり過ぎている気がして申し訳ない気もする。
だが、今回はユージリオさん提案の選抜戦からの延長戦にある鍛冶なので大目に見てもらおう。
庭に出ると即座に簡易土窯を作り、そのタイミングで二人がやって来た。
「本日はお邪魔させていただきます、ユージリオ様」
「ご招待ありがとうございます」
「そんなに硬くなるな。今日は無礼講だ」
「おはようございます。早速ですが、まずはマギドさんの双剣を打とうと思います」
マギドさんに告げると、僕はカズチが錬成してくれた二つの錬成素材を取り出した。
「それは?」
「ライトストーンとバルウイングです」
「ライトストーンは聞いた事ありますが……バルウイング?」
「あぁ。これはゾラさんから譲り受けた素材で――」
「え、遠慮します! それ、絶対に恐ろしく高価な素材ですよね!」
僕の説明を受けてマギドさんがもの凄い拒否反応を示してきた。
だが、それはもう遅い。すでに錬成を済ませているのだから。
「錬成だけですよ! 鍛冶をしてないのならまだ間に合いますって!」
「でも、
「わ、私の話を聞いてくださいよ!」
「……俺の素材じゃなくてよかった~」
興奮しているマギドさんに、何やらホッとしているギャレオさん。
ふむ、ここは一つマギドさんに予定している素材も伝えておこうかな。
「ちなみに、ギャレオさんにはフレアイーターの剛角を使いますからね?」
「……フレアイーター? 剛角と言うのだから、魔獣の素材ですよね?」
「はい。これはホームズさん……えっと、
「私も遠慮させてください! お願いしますから!」
「なんでも、全ての炎を喰らい、吐き出す事のできる魔獣らしいですよ。火属性のレベルが高いギャレオさんにふさわしい素材ですね!」
「……聞いてないですよね?」
「……諦めましょう、ギャレオ先輩」
どうして質の高い素材で作ると言っているのにこうも断ろうとするのか。
冒険者もそうだけど、騎士だって最善の装備を得られる機会はそうそうないだろうし、貰っておいて損は無いはずだ。
「マギドさんは僕たちと共に行きますし、ギャレオさんも決勝まで勝ち上がった実力者ですからいずれは隊長にもなれるんじゃないですか?」
「まあ、私も騎士の端くれですから、目指すべきは上の立場だと考えております」
「なら、貰っておいて損はないですよね?」
「……素材が、凄すぎて私に扱えるか」
「なら、さらに鍛錬すればいいだけの話ですよ! ね、マギドさん?」
「……はぁ」
よし、二人共納得してくれたようだ。
僕の隣で話を聞いていたユージリオさんもやや呆れているように見えたが、気にしないでおこう。
まずはマギドさんの双剣。どちらの素材も風属性に高い適性を持つのでマギドさんの戦い方をさらに高めてくれるはずだ。
僕はマギドさんから双剣を預かり、その重さや特徴、さらに希望する内容を確認してイメージを固めていく。
……うん、これでいこう。蝶のように舞い蜂のように刺す。
だが、軽いだけではなく切れ味と耐久性も兼ね備えた双剣を作り出すには、この二つは打ってつけの素材になるだろう。
「……始めるかな」
イメージも完全に固まり、僕はライトストーンから鍛冶を始める事にした。
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