閑話:マギド・アブーダ
国家魔導師長のユージリオ様から驚きの提案が騎士団にもたらされた。
先日の模擬戦でポーラ騎士団長と引き分けた英雄、ジン・コープス様が率いるキャラバンへの同行者を一名募集するというものだ。
俺は即座に手をあげたのだが、それは俺だけではなかった。というか、騎士団のほとんどが立候補してきたのには驚いた。
「私も立候補するぞ!」
「騎士団長が何を言っているのだ」
「ポーラ様が立候補するならば私も」
「オレリアもダメだ! というか、一名だと言っているだろう!」
……ユージリオ様、大変な役割をになっておりますね。
話を戻しますが、あまりにも立候補者が多かったこともあり選抜戦が行われることになりました。
俺はまだ若い騎士だが、一対一の試合であれば負けない自信がある。
何故なら、その模擬戦の時に見た彼の試合が自信につながったからだ。
――ユウキ・ライオネル。
ユージリオ様の息子という事で色々な噂話を聞いたのだが、彼は無属性魔法以外の一般スキルを持っていないのだとか。
それでは魔導師の名門であるライオネル家では生きていけないだろう。それを理解しているからこそ、彼は家を出て冒険者になったはずだ。
だが、彼は腐る事なく唯一の無属性魔法を徹底的に鍛え上げ、今では中級冒険者にまで成り上がっている。
しかし、それだけなら他にもいそうなものだが、彼は俺の師匠であったオレリア隊長とほぼ互角の試合をして見せたのだ。
正直、悔しかった。
俺も無属性魔法には自信があったが、彼以上に卓越した使い方をできる自信はない。
だが、騎士団の中では団長や隊長たちを除けば五本の指に入る無属性魔法の使い手だと自負できる。
ならば、最初のバトルロイヤルさえ勝ち抜く事ができれば俺にもチャンスはあるはずだ。
……そして、我儘が通用するのなら、彼とも模擬戦をしてみたいな。
バトルロイヤルを勝ち抜き、トーナメント戦も順調に勝ち上がり、決勝戦ではギャレオ先輩との死闘を制して優勝する事ができた。
まずは第一目標を達成した。だが、ここからが俺にとっての本番になる。
「俺は――ユウキ・ライオネルと模擬戦をしたいと考えています!」
……言ってしまった。これでジン様に嫌われてしまい、同行を拒否されてしまえば元も子もないだろう。
だが、一度でいいから本気の彼と試合をしてみたかったのだ。
ドキドキしながら彼の答えを待っていたのだが、意外にもあっさりと受けてくれたし、連戦になる俺の事も気に掛けてくれた。
我儘を言っているのは俺なので休憩を挟む必要はないと彼の提案を断り、すぐに模擬戦は開始となる。
一合を打ち合わせた瞬間、俺は彼との実力差をすぐに理解してしまった。
確かに無属性魔法の卓越さでは勝てないと思っていたが、双剣で手数を増やせば剣術でも勝てるかもしれないと思っていた。
だが、彼は一振りの剣で完全に俺の双剣を弾き返してしまう。
ギャレオ先輩も直剣使いだが、返ってくる衝撃が段違いなのだ。
このままでは一気に押し切られると判断し魔法も併用したのだが、こちらにも即座に対応されてしまった。
さらに言えば、魔法が消えた直後を狙われて一気に仕掛けてきたのだ。
警戒していても抑えきれない。分かってはいたけど、これほどに差があるなんて。
結局、俺は彼に圧倒的な実力差を見せつけられて敗北した。
……これはもう、決めるしかない。
「……さすがです、ユウキさん。……いや、師匠!」
「…………はい?」
俺はユウキさんの事を師匠としてついていく事を決めたのだった。
後に、ジン様の規格外さを見せつけられてしまい、どちらを師事するべきか悩むことになるとは思わなかった。
……いや、両方に師事すればいいのか? まあ、これから一緒に行動していけば答えは出てくるだろう!
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