引き寄せられた魔獣
五ヶ所目の撒き餌に到着した僕は、明らかに今まで見てきた魔獣よりも図体のでかい魔獣を見つけた。
というか、その魔獣しかいないのだから見逃すはずがない。
「ソニンさん、あれがヴァジュリアなんですか?」
僕の質問に、ソニンさんは目を見開いたまま固まってしまい答えてくれない。
他の面々に視線を向けたのだが、全員が驚いているように見える。
「……もしかして、予想していた上級魔獣ってことですか?」
この質問にはグリノワさんが答えてくれた。
「まあ、そういうことじゃのう。あいつはヒュポガリオスじゃ」
「……ヒュポガリオス?」
「特徴としては背中に生えている羽根じゃろうな。じゃが、強靭な四肢で地面を駆けることもできる」
「それって、制空権も奪われて、なおかつ地上戦も強い魔獣ってことですね」
「そういうことじゃが……ほんに、ジンは面白いのう」
今の話の中に面白い要素なんてあっただろうか。
「……冷静に分析できるってところじゃないかな。ケルベロスと対峙した時も、もの凄く冷静だったもんね」
「分析って、これくらい誰でも分かることでしょう?」
僕は当然のことだと思ったのだが、上級魔獣と対峙すること自体が少ないということで、やっぱり僕の態度はおかしいということで結論付けられてしまった。……解せん。
「しかし、ヒュポガリオスはこの辺りに生息しているような魔獣ではないぞ」
「ラドワニへの道中で仕掛けられていた道具が、ここにもあったんでしょうか?」
「うーん、かもしれんのう。もしかしたら、魔獣の好きな臭いを放つ道具でヒュポガリオスが引き寄せられ、さらに撒き餌をしたことでここにやって来た、と見るべきかのう」
結果的には撒き餌のせいでここに現れたということかもしれないが、元をたどればその道具が原因かもしれない、ということだ。
「その道具を置いていった輩は、本当に何がしたかったんでしょうね」
「……魔獣を、ラドワニに殺到させるつもりだったのかもしれないのう」
「えっ! まさか、そんなことをしたら!」
「戦力がいなければ、当然崩壊するじゃろうな」
……そ、そんな怖いことをサラリと言わないでほしいんだけど。
そうなると、その輩はラドワニに対してか、そこに住む誰かに対して激しい恨みを持っていたということだろうか。
「まあ、儂らは儂らでできることをすればよい」
「できること……あぁ、なるほど」
「ヒュポガリオスを討伐することじゃろう。リーダーはマリベルじゃ、どうするんじゃ?」
ここまで仕切っていたからグリノワさんがリーダーだと錯覚してしまった。
……いや、錯覚ではないようだ。話を振られたマリベルさんがもの凄く驚いた表情でグリノワさんを見ているのだから。
「当り前じゃろう。儂はあくまでジンの質問に答えていただけで、これからどうするかはお主が決めることじゃ」
「……分かりましたよ! まったく、これじゃあ今回の依頼、割に合わないよう」
そんなことをぶつぶつ言っているものだから、僕はチラリとソニンさんへ視線を向ける。
僕の視線と意図に気づいたのだろう、ソニンさんは仕方ないといった感じで頷いてくれた。
「……マリベルさん?」
「……何よジン君、今の私は面倒臭いこの状況に打ちひしがれているんだけど?」
「もし、ヒュポガリオスの討伐と、この後でヴァジュリアの素材が手に入ったら、お礼に僕が何か打ってあげますよ?」
「……えっ?」
打ってあげると伝えた途端、マリベルさんの動きがピタリと止まり、そして視線が僕からソニンさんへと移っていく。
「……これは、マジですか?」
「マリベルがやる気になってくれるなら、仕方ありません。あなたの言う通り、上位魔獣の討伐は予定外ですからね」
「……よーし、やってやろうじゃないの! これだから冒険者は止められないわ!」
なんて現金な人なんだろう。
だけど、もしかしたらマリベルさんのような性格の人が、冒険者なのかもしれない。
ユウキとフローラさんは人が良いし、グリノワさんはちょっと変だし、ホームズさんは異名持ちで普通とはかけ離れてるし。
報酬に従順、といえばいいのだろうか。危険を賭して魔獣と戦っているのだから、それ相応の報酬がないとやる気も出ないんだろうな。
そう考えたらマリベルさんに剣を打つのも悪くはない。むしろ、打ってあげたいとさえ思う。
グリノワさんならきっとヒューゴログス以外の鉱石を見つけてくれていそうだし、ソニンさんに協力してもらうことにはなるけど、マリベルさんにも渾身の一振りを渡したいな。
「それじゃあ、グリノワさんはケヒートさんとジン君を護衛をお願いします」
「心得た」
「私とユウキ君でヒュポガリオスの機動力を削ぐから、フローラちゃんは飛び上がった時に魔法で叩き落してほしいわ」
「こ、攻撃魔法には、あまり自信がないのですが、大丈夫でしょうか?」
「そこは安心してちょうだい。もし叩き落せなかったとしても、そこは私がカバーするからさ。フローラちゃんもユウキ君も下級冒険者なんだからいい経験ができるー、くらいに思ってくれていいんだからね」
最後は気安く声を掛けてウインクをしていた。
なんだかんだでマリベルさんも上級冒険者なのだ。
後輩の気持ちを察し、そのうえで自分がしっかりとカバーすると伝えることで気持ちに余裕を持たせようとしている。
マリベルさんの言葉を聞いたからか、フローラさんの表情も心なしか柔らかくなったように見えるし、大成功だろう。
「まあ、本当に何かあったらジン君もいるしね!」
冗談交じりの言葉だったはずなのだが……フローラさん、そこでなぜ満面の笑みを浮かべるのかな?
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