想定内?
証明部位の回収が終わり、魔獣の処理も完了した僕たちは次の撒き餌の場所に移動した。
しかし二ヶ所目、三ヶ所目と確認したが目的のヴァジュリアの姿は見当たらず、撒き餌に集まってきた別の魔獣を討伐していくばかり。
もしかしたら、マリベルさんが言っていた通りにヴァジュリアを探索することも考えなければならないかもしれない。
「四ヶ所目は……うーん」
「いませんか?」
「そうだね。ここも違う魔獣ばっかりだわ」
ここまでマリベルさんもユウキも魔獣を討伐し続けているので疲労の色が濃い。
僕が魔法で一掃できたらいいんだけど。
「ジン君、ここは魔法でドカンとやってくれるかな?」
「いいんですか?」
「うん。最後の撒き餌の場所はここから離れてるからね。魔法を使っても問題ないんだ」
そういうことであればお安いご用である。
僕は高台から魔獣の群れを眺め、どの魔法を使おうかを考える。
広範囲魔法なら火、水、風、土属性を今までは使ってきた。
木属性を使っての広範囲魔法はまだやったことがないけど、周囲には枯れた木すら見当たらないので今回はパスだ。
そうなると、ちょっと試してみたいことがあるだよね。
「ここなら、ちょっと無茶な魔法でも回りに迷惑は掛からないだろうし」
僕が選んだ属性は──火と風の二属性。
まずは魔獣を取り囲むようにして風の壁を発生させる。竜巻みたいなものかな。
もちろん風に触れればかまいたちが切り刻んでくれるので殺傷能力は抜群である。
しかし、風属性に耐性を持つ魔獣や硬い外皮を持つ魔獣もいるかもしれない。
そこで考えたのが、風に炎を纏わせるということだ。
最初は一本の赤い筋が揺れているだけだったが、徐々に太く、さらに本数を増やしていく。
そして、最終的には──
「……ほ、炎の、竜巻」
マリベルさんの口から驚嘆したかのように呟かれた。
ただ、僕の魔法はこれで終わりではない。
風の範囲を少しずつ狭めていき、中央に陣取っていて魔獣をも切り刻み、燃やし尽くしてしまう。
風と火の二属性に耐性を持つ魔獣がいたら全滅はできないかもしれないが、下級や中級魔獣に都合よくいるはずもないと思っていたが……うん、いなかったみたいだ。
炎の竜巻が中央で一つとなり、最後に消えてなくなった時には、魔獣の血肉も、死臭すらも吹き飛ばしてなくなっていた。
「……あ、あり得ない」
この呟きもマリベルさんのものだ。
他の面々は僕の魔法を少なからず見ているので、呆れてはいるだろうけど理解はしてくれているだろう。
まあ、いつものあの言葉が出てくるんだけどね。
「……まあ、ジンだからね」
「そうですね、ジン様ですし」
「コープス君、ですものね」
「ガハハハッ! さすがジンじゃのう!」
これである。
僕も気にしてないのでいいのだが、魔法を初めて見たマリベルさんからすると理解できないことなんだろうな。
「えっ……えっ? それでいいの? あんなもの、上級冒険者でも無理なんだけど?」
「マリベルよ、気にしていてはいかんぞ」
「そうですね。ジンは基本的に規格外ですから」
「私もようやく慣れてきたところですから、マリベル様ならすぐに慣れますよ!」
「コープス君のやることにいちいち驚いていたら、身が持ちませんよ」
……みんな、僕に慣れてきた途端にさらに言葉を足してくるんだから、酷いよねぇ。
「……あっ! しまった、これだと討伐証明が確保できないや」
だが、僕の魔法は威力が強すぎて魔獣の肉体自体がなくなってしまう。
処理の手間が省ける反面、お金になる討伐証明が確保できないとなれば、単なるボランティアになってしまうのだ。
「あー、うん、そうだね」
「まあ、今回の目的はヴァジュリアなんだからいいんじゃないかな」
心ここにあらずで返事をしているマリベルさんに変わり、ユウキが今回は問題なしとしてくれた。
ありがたいけど、今後は気をつけなければ。
「さて、ここでやることはなくなったか。どれ、最後の場所に向かうかのう」
グリノワさんの号令で僕たちは最後、五ヶ所目の撒き餌の場所へと向かう。
ここで見つからなければ、明日の夜も同じことを繰り返すことになる。
採掘もしたいし、ラドワニに戻ってからもやりたいことがあるので、さっさと見つかってくれることを願うばかりだ。
──だが、そうは問屋が卸さない。
五ヶ所目に到着した僕たちは、ヴァジュリアよりも強敵と遭遇することになってしまった。
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