交渉

 まずはカズチに確認しなきゃいけないことがある。


「まずはケルン石の元値を聞いていいかな?」

「えっと、小銅貨三枚だな」

「カズチは利益としてどれだけ得ようと考えていたの?」

「どれだけって……さあ」

「さあ? 何も考えてなかったの!」

「いや、だって、卸すだけだと思ってたし」


 頭を抱えたくなってしまった。

 利益があるなら小銅貨一枚でもいいとか考えていたんじゃないだろうな!


「……少し、店内を見て回りますね」

「えぇ、どうぞ」


 了承をもらって僕はゆっくりと歩き出す。

 入口からすぐに棚を見て回り、奥に向かいながら陳列のレイアウトを確認。

 そして雫型がどこに並ぶだろうか、さらに一つ一つの売値を見て回る。


「……この辺りかな……だいたいこれくらいで……高いのでこの値段か……」


 安くて小銅貨五枚、高くて中銅貨一枚と小銅貨三枚か。

 サラおばちゃんはあえて三つに分けたのは、それぞれで売値をある程度考えているからだろう。

 趣味で始めたお店って言ってたけど、やはり商売人である。


「ありがとうございます」

「いえいえ。それじゃあ始めましょうか」

「はい」


 何が起こっているのか分かっていないカズチとルルがポカンとしながら成り行きを見守っている。


「まずは、僕から提示させていただきます。大きくて質が良い物を一番、小さくて質が良い物を二番、傷がある傷物を三番とします。一番を中銅貨一枚、二番を小銅貨七枚、三番を小銅貨五枚でいかがでしょうか」

「おい、ジン! 中銅貨一枚は高過ぎだろ!」

「カズチは黙って見てて」

「ぐっ! ……わ、分かったよ」


 有無を言わせぬ声音で言い放ち交渉を続ける。


「何故その値段になったのかしら?」

「まず、サラおばちゃんが取り扱っている商品の価格帯を調べました。もちろん、商品についても。一番は大粒で質も良いです。一番奥の目立たない場所になりますが、この辺りの商品と同列と考えました。中銅貨一枚から中銅貨一枚と小銅貨三枚がこの辺りの価格帯です。二番は小粒なので正面と中央辺りの棚と同列で小銅貨七枚から九枚。三番は最安値で正面の棚、小銅貨五枚です」

「そうですね、それで?」

「単純に同価格帯の最安値に合わせました。そこにサラおばちゃんの利益分が上乗せされれば、比較的並んでいる商品と同価格になるのではないかと」


 軽く頷きながらサラおばちゃんが口を開く。


「ですが、そうなると私の店の商品でも高価な物になってしまうわ。初めての契約でそれはあまりにも綱渡りだと思わない?」

「でしたら、サラおばちゃんはいくらなら買っていただけるのですか?」

「そうねぇ……一番は小銅貨八枚、二番は小銅貨六枚、三番は小銅貨四枚、と言ったところでしょうか」


 僕の狙いに気づいたのか、ニコニコしながら値段を提示してきた。


「その真意は?」

「うふふ、提示された金額より安くしようとするのは商売人として当然でしょう?」

「……得意じゃないって言ってたのに」

「あらあら、得意じゃないのは本当よ。だけど、今日くらいは頑張らなくてはね」

「まあ、そうですね」


 横目でカズチを見ながら、僕は視線を戻して交渉を再開する。


「まずは三番なんですが、これでは利益が小銅貨一枚になってしまいます。手間賃を考えても安過ぎます」

「だけれど、元々は捨てる予定のものでしょう? 小銅貨一枚でも良いと思いますけどね。元値すら回収できない物ですよ?」


 カズチとのやり取りが裏目に出てしまった。

 それを言われてしまうと強気に出ることができなくなる。


「それなら、三番はサラおばちゃんの言い値で構いません。なので一番と二番はこちらの言い値でお願いしたいですね」

「そちらもどうでしょうか。やはり、初めて契約する物ですから私としては損はなるべく出したくないのですよ」

「その気持ちは分かります。だけど、この型はこのお店にありませんよね? 今後、この型の人気が出た時にカズチが卸さなくなったらどうするんですか?」

「俺はそんなこと――」


 目線でカズチを制する。

 もう、口を挟まずに見ていられないのかな。


「それは困りますね。できれば優先的に卸して欲しいのですけど」

「それなら、三番は小銅貨四枚、二番と一番はこちらの言い値でどうでしょうか。カズチには優先して卸してくれるよう約束させますので」

「でも、さすがに中銅貨一枚はねぇ……払えそうにないのよ」

「そうですか……分かりました。では、一番は間をとって小銅貨九枚にしませんか?」

「えっ?」


 後ろからカズチの意外そうな声が聞こえてくる。


「でも、いいのかしら?」

「支払ってもらえなければ意味がないですからね。二番はこちらの言い値で、それだけは譲れません」

「そうねぇ、一番個数の多い一番が九枚なら、何とかなるかしら」

「それじゃあ、これでいいですか?」

「……分かりました、この金額が妥当かもしれませんね」


 交渉成立である。

 一番は小銅貨九枚。

 二番は小銅貨七枚。

 三番は小銅貨四枚。

 元値が合計で大銅貨一枚と中銅貨一枚と小銅貨一枚。

 手元に入るのが大銅貨二枚と中銅貨五枚と小銅貨八枚。

 差し引けば大銅貨一枚、中銅貨四枚、小銅貨七枚がカズチの利益となる。


 振り返りカズチの顔を見ると――何故か青ざめていた。

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