二度目のヴァジュリア巡り

 錬成をソニンさんに任せて、僕はユウキから周辺の状況を伺うことにした。

 フローラさんも一緒におり、魔獣がどのように分布しているのかが気になったのだ。


「ヒュポガリオスはいなくなったけど、まだ魔獣は戻ってきていないみたいだね」

「ってことは、一匹もいなかったの?」

「いや、いたにはいたんだけど、一匹だったり二匹だったり、数としてはとても少ないかな」

「本来なら嬉しいことなんですが、素材が欲しい時には何とも言えないですね」


 フローラさんの言う通り、魔獣がいないということは素晴らしいことなのだ。

 だが、実際に魔獣はいたるところで跋扈しており、その魔獣を倒すためには強力な武器が必要で、その強力な武器を作る為には魔獣の素材が必要となる。

 食物連鎖とは違うかもしれないが、このサイクルが魔獣がいないことに対して残念だと思ってしまうんだろうな。


「しかし、もし中級魔獣まで逃げたとしたら、逃げた先は大変なことになりそうだよね」

「大きい都市なら問題はないだろうけど、小さな都市だと危ないかもしれないね」

「ラトワカンの逆側には花の都があると言っていましたよね?」

「うん。花の都なら大きな都市だし、兵士や冒険者も多くいるだろう。でも、その間に別の都市があったかどうか。僕も実際に行ったことはないから分からないんだよね」

「そっか。何もないことを祈るばかりだね」


 それにしても、ラトワカンでやりたいことはヴァジュリアの素材確保以外は全てできてしまった。

 採掘もできたし、そこでお小遣い……以上になりそうな鉱石も確保できた。

 さらに言えば鍛冶もできて、それをユウキにプレゼントすることもできた。

 その価値は……まだ言ってないけど、そこは置いておこう。

 とにかく、僕がやりたいことはもうないので、後は撒き餌にヴァジュリアが掛かってくれるか、もしくはマリベルさんが自力で見つけてくれたら最高の結果につながる。

 ……ヴァジュリア、お前だけは逃げないでいてほしいな。


 ソニンさんの錬成が終わったと報告を受けたのだが、肝心のマリベルさんがいまだ戻ってこない。

 メイン武装は見ているけど、何か要望があるかもしれないし勝手に打つことは避けたいところだ。


「今すぐに打たなければいけないわけじゃありませんよ。戻ってきてからでもいいですし、何ならカマドに戻る道中でも野営はするのですから」


 そうソニンさんに言われて納得した僕は、錬成されたアクアジェルを魔法鞄に入れて雑談に花を咲かせることにした。


 結局、マリベルさんが自力でヴァジュリアを見つけることができず、撒き餌に期待を託すことになりその日は就寝となった。


 ※※※※


 そして夜も更けてきた時間帯、昨日と同じ時間帯に起きた僕たちは撒き餌の場所まで向かうことにした。

 今回は六ケ所に撒き餌が設置されている。そのどこかにヴァジュリアがいることを願いながら一ヶ所目に向かったのだが――


「……いませんね」

「ぐ、ぐぬぬぬぬっ! ヴァジュリアめ、私の剣が、剣がああああああっ!」

「……欲の塊ですね」

「いいのよ、ジン君! これが冒険者なんだから!」

「あは、あはは」


 これが冒険者なんだから! と言われた後のユウキの反応が……乾いた笑いを溢しているんですが。


「ユウキ君、さっさと仕留めて次に行くわよ!」

「は、はい!」

「あと五ヶ所、絶対に仕留めてやるんだからね!」


 欲の塊が魔獣の群れに突っ込んでいき、追い掛けるようにユウキも駆け出した。

 ユウキの戦い方は昨日と変わらないのだが、マリベルさんは時間を掛けたくないのか魔法も駆使して全力で殲滅に掛かっている。


「最初からあれくらいやってくれればいいんじゃがのう」

「マリベルはやる気にムラがあるのが玉に瑕ですね」


 年長組がマリベルさんの欠点を指摘する中、魔獣は確実にその数を減らしていき、昨日よりも明らかに速い時間で討伐を完了させてしまった。


「ジン君! 早く下りてきて魔法鞄に突っ込んじゃいなさい!」

「えっ、僕にまで飛び火?」

「早く!」

「は、は~い!」


 マリベルさんから急かされて高台から下りて行き、必要な物かどうかは後回しにしてドンドンと魔法鞄に入れていく。


「……これ、さっさと燃やしちゃった方が早くない?」

「……ジン、一応入れておこう。魔法鞄に入れておけば、後から焼いてもいいんだから」


 ユウキも一緒になって魔獣を集めてくれている。

 どうやら、マリベルさんの迫力が相当怖いようだ。


「ほら! さっさと行くわよ!」

「「は、は~い!」」


 ……なんだかもう、打ってあげてもいい気がしてきたよ。

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