ヴァジュリアとの戦闘

 二ヶ所目、三ヶ所目と空振りに終わり、マリベルさんの苛立ちはピークに達しようとしていた。

 残るは三ヶ所なので、できればここで見つかってほしい。

 ……そろそろ、本当にマリベルさんが爆発しそうなのだ。


 さて、結果としては――ヴァジュリアはいた。

 だが、中級魔獣がいるということで下級魔獣は少なかったのだが、ヴァジュリア以外の中級魔獣が数匹存在している。

 今までは有象無象を蹴散らすだけでよかったのだが、中級魔獣ともなれば力押しだけでは足元をすくわれるかもしれない。


「今回は私とハピー、それにゴルドゥフさんでいこうと思うわ」

「おっ、儂でいいのか?」

「ユウキ君の実力でも問題ないとは思うんだけど、中級魔獣との戦いは経験が大事になる場面も出てくるわ。複数の中級魔獣を相手にするというところで……ユウキ君とフローラちゃんには、私たちの戦い方をしっかりと見ていてほしいのよ」

「……ふむ、マリベルにしては的確な判断じゃのう」

「……ゴルドゥフさんは一言多くないですか?」

「普段の態度のせいじゃろうが」


 呆れ顔のグリノワさんに頭を掻きながら溜息をつくマリベルさん。

 だが、その表情は真剣そのものであり、ユウキとフローラさんを真っすぐに見つめていた。


「……分かりました、よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いいたします!」


 二人の返事を受け、マリベルさんはハピーに跨り、グリノワさんは肩を大きく回してメイスを握る。


「さて、久しぶりに二人で暴れるかのう!」

「ちょっとゴルドゥフさん、ヴァジュリアに関しては素材が必要なんですからボロボロにしないでくださいね!」

「それくらい分かっておるわい! では――いくぞ!」

「ブルヒヒヒーン!」


 グリノワさんの合図と同時に高台を駆け下りていく。

 撒き餌に夢中になっている魔獣は二人と一匹の存在に気づいておらず、一番近くにいた魔獣が斬り裂かれ、吹き飛ばされる。

 そのタイミングで全ての魔獣が存在に気がつき、咆哮をあげながら襲い掛かっていく。

 動きの速い魔獣や力の強い魔獣、さらには魔法を使って攻撃してくる魔獣もおり、戦場は荒れに荒れている。


 その中でもハピーは魔獣の隙間を縫うようにして機敏に動き回り、すれ違いざまにマリベルさんが斬り捨てていく。

 グリノワさんはというと、その耐久力を活かして魔獣の攻撃を弾き返しながら突き進み、メイスを振り回して屠っていく。


「……ち、力押し」

「……経験が大事って、あれは参考にならないんじゃ?」

「……マ、マリベル様の戦い方を見ておきましょう」

「ですが、マリベルは霊獣に乗っているのですから、こちらもあまり参考にならないのでは?」

「「「……確かに!」」」


 ソニンさんの意見は的を射ており、フローラさんは当然ながら、フルムがまだ幼獣である今のユウキにも参考にはならない。


「……ま、まあ、ヴァジュリアが見つかったんだから、そこは良しとしようよ」

「……そうですね。それに、お二人のおかげで魔獣もみるみる減ってますし」


 何だか残念そうな表情のユウキとフローラさん。

 ……マリベルさん。格好よく言っていたけど、詰めが甘かったようです。

 だが、二人は戦い方ではなく中級魔獣の動きを見ており、そちらをこれからの参考にするようだ。

 知識としては知っていても、実際に対峙すると全く違う動きをする魔獣というのは多いようで、ユウキも初見の魔獣を相手にする時は慎重になるのだとか。

 フローラさんにはユウキ程の知識はないようで、さらに慎重になるらしい。


「あの魔獣は……」

「はい、はい。ではあちらは……」


 という感じで、集中力高く話し合っている。

 そうなると僕は暇になってしまうので、ソニンさんに話し掛けることにした。


「この調子だと、マリベルさんに武器を打つのは確定ですね」

「致し方ないでしょうね」

「アクアジェルは水属性に適した素材ですけど、付与もしてくれているんですよね?」

「もちろんです。成り行きではありますが、錬成をするならば全力でやらせていただきますよ」

「ありがとうございます。マリベルさんの武器は……標準的なショートソードですか」

「彼女の身長に合わせていますが、その通りです。変に見た目にこだわると使いづらくなると言って、斬れ味以外は全て標準的な形です」


 そうなると、僕の鍛冶には天敵かもしれない。

 頭の中で完成形を強くイメージすることが善し悪しにも関係してくるのだが、標準的な見た目の武器は可もなく不可もなくで仕上がることが多い。

 最近の鍛冶は全て完成形のイメージ通りにできているので、今もそうなのかは分からないが、できれば見た目にも少し工夫を凝らして打ちたいんだよね。


「マリベルと相談して、コープス君がやりやすい方法を探ればいいと思いますよ」

「そうですね。依頼主の要望を聞くもの大事ですが、そのせいで完成した武器の質が落ちてしまっては元も子もないですから」


 そうこうしている間にも魔獣はどんどんと減っていき、最終的にはヴァジュリアのみが残った。


「あっ……一瞬、でしたね」

「……えっと、そう、だね」


 マリベルさんがハピーの機動力を活かして一瞬のうちに懐に潜り込んで一振りで仕留めてしまった。

 ……本当、参考にならないな!

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