残りの撒き餌
ヴァジュリアの確保ができたからだろう、今回はすぐに呼ばれるようなことはなく、笑顔を浮かべながらハピーに乗ってマリベルさんが迎えに来てくれた。
「ケヒートさん! ジン君! これなら問題ないでしょう!」
「そうですね」
「僕は素材を確保してきますね」
「よーし! さっさと回収して、鍛冶をしてもらうんだからね!」
両腕を上げて喜んでいるマリベルさんだったが、そこにソニンさんが冷静にまだダメだと指摘した。
「撒き餌はあと二ヶ所あります。そこの魔獣を殲滅してからですね」
「……えぇ~?」
「その理由はあなたが一番分かっているでしょう?」
「……はーい。あっ! それじゃあジン君に魔法で一掃してもらうってのもあり?」
「……マーリーベール―?」
「あは、あはは! 冗談だから、ケヒートさん! さ、さあ、ジン君、行きましょうかー!」
迎えに来てくれたと思っていたが、マリベルさんはそのままハピーと一緒に下りて行ってしまった。
「結局、僕は僕で下りるんだね」
「あはは。まあ、ジンの武器が手に入るって分かったら興奮するのは分かるよ」
「そうなの?」
ユウキの意外な言葉に僕は少しだけ恥ずかしくなりながらもとても嬉しかった。
「そうだよ。ジンが打った武器を使っている身としては、その価値を実感できているからね」
「……ありがとう。そ、それじゃあ、僕は行ってくるね!」
「うん。ここの護衛は任せてよ」
気軽に手を振ってくれたユウキに振り返して、僕は高台から下りて行った。
「ジンよ、他の魔獣は処分しても問題ないか?」
「大丈夫です。結構な数を回収してるので、もしかしたら入らなくなるかもですし」
ホームズさんからは容量が大きいとは聞いているが、実際にどれくらい入るかは分からない。
結構な数を回収しているというのも事実なので、僕はグリノワさんのヴァジュリア以外の魔獣の処分をお願いした。
そして、目的の魔獣であるヴァジュリアを目の前にする。
「大きいですね」
「こいつはヴァジュリアの中でも大きい方かもね。その分、錬成や鍛冶の時には大変だろうけど、頑張るのよー」
「ぐぬっ! ……まあ、これを乗り越えないと一流にはなれませんからね」
「向上心が高いのは良いことよ!」
素材の剥ぎ取りは残る撒き餌の魔獣を一掃してからという話になり、僕はヴァジュリアをそのまま魔法鞄に入れて高台に戻って行った。
残る二ヶ所の撒き餌だが、最後の六ヶ所目にもう一匹だけヴァジュリアを狩ることができた。
計二匹のヴァジュリアを確保した僕たちは、その六ヶ所目の場所で素材の剥ぎ取りを行うことにした。
野営地に戻ろうかとも話に上がったのだが、寝る場所が血生臭くなるのはどうかと言う話になったのだ。
魔法鞄から一匹目のヴァジュリアを取り出すと、それぞれをマリベルさんとグリノワさんが剥ぎ取りを行ってくれる。
残った他の魔獣に関してはユウキとフローラさんが手分けして剥ぎ取りだ。
僕はというと、ソニンさんと一緒にその光景を眺めていた。
「……あっ! どうせだし、ここで鍛冶をやっちゃおうかな」
「剥ぎ取りも時間が掛かりそうですし、いいかもしれませんね」
ソニンさんからも許可を貰えたので、僕はタイミングを見てマリベルさんに声を掛けた。
「どうしたの、ジン君?」
「剥ぎ取りに時間が掛かりそうなので、ここで鍛冶もやってしまおうと思いまして」
「おぉっ! やった、そうなのね! よーし、やる気が出てきたわー!」
「それでですね、何か希望があれば聞いておきたいと思ったんですよ」
「希望? ……特にないけど。ケヒートさんから聞いてない?」
やっぱり希望なしか。
ならばと僕は一つの提案を口にした。
「聞いたんですけど、シンプル過ぎると上手くできるか分からないんですよね……それで、ちょっとだけ刀身に模様を入れてもいいか許可を貰いたいんですよ」
「模様? ……まあ、あまり派手にならなければいいわよ」
「ありがとうございます!」
よし! マリベルさんからも許可が貰えたことだし、僕はソニンさんのところに戻りながらもどのような模様を施そうか考える。
アクアジェルは水属性に適している素材なので、水を連想させる模様を施すべきだろう。
「……水……雨……海……波なんてどうかな?」
刀身の中央、鍔から切っ先へ向けて波立模様を施せれば派手にならずとも美しいショートソードを打つことができるはずだ。
「……イメージは固まりましたか?」
「……はい。これなら、いけそうです!」
ソニンさんへ合図をしながら簡易土窯を作り出し、そしてアクアジェルを取り出した。
「さて――やるか!」
僕は気合を入れ直し、窯に火を点した。
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