第5章:初めての都市へ
日取り決定
ソニンさんから個別指導の話を聞いてから数日が経ち──ようやく指導を始める日が決定した。
「明後日に東へ出発するんですか?」
「はい。ようやく私の知り合いが護衛依頼から戻ってきたので。ゾラ様にも話は通してありますよ」
「分かりました。……ソニンさん、護衛依頼はお知り合いの方だけですか?」
「いえ、他にもどなたかに依頼しようと思っていますが……あぁ、なるほど」
ソニンさんは僕が言おうとしていたことを理解してくれたようで笑顔で頷いてくれた。
「構いませんよ。ユウキ君とフローラさんにも声を掛けてあげてください。知り合いの冒険者は上級なので、二人が一緒でも問題ありませんから」
「ありがとうございます! 他に聞いておかないといけないことはありますか?」
「いえ、大丈夫です。二人に伝えてあげてください」
「失礼します!」
よかった。他の都市に行くのは楽しみだけど、知らない人ばかりだったら萎縮してしまうところだった。
王都に行った時は無我夢中だったし、すぐに打ち解けられたから問題なく向かえたけど、できれば知り合いが多い方がいいよね。
「ガーレッド、明後日から色々なところを見て回ろうね!」
「ピキャキャーン!」
僕は嬉しそうなガーレッドの頭を撫でながら冒険者ギルドへ向かった。
※※※※
到着してすぐにダリアさんに声を掛けたのだが、ユウキたちはすでに出てしまっていた。
「何か用事でもあったの?」
「ソニンさんと東の森を抜けて、ラトワカンまで魔獣素材を取りに行くことになったんです」
「……え? 素材を依頼するんじゃなくて、現地までジン君が行くの?」
僕が頷くと、ダリアさんは驚いているのか何度も瞬きを繰り返していた。
「その方が早いと思うんですけど、ラトワカンの近くにあるっていう都市にも行ってみたいんですよね」
「ラトワカンの近くだと……ラドワニかしら?」
「そこです! 王都ではゆっくりできなかったし、ラドワニではゆっくり観光とかしたいなって思ってるんですよ」
「……えっと、魔獣素材を取りに行くのが目的なんだよね?」
「そうですけど、それくらいの楽しみがないとやってられませんよ。ダリアさんが言うように、素材を依頼した方が本当は早いんだもん」
僕の言葉にダリアさんは苦笑しながら同意を示してくれた。
「確かに、遠くに行くなら何か楽しみがないと面白くないわね」
「ダリアさんはラドワニまで行ったことがあるんですか?」
「えぇ、あるわよ。あの時は東の森を抜けて二日掛かったかしら。途中で夜営を挟んだから大変だったわよ」
「夜営、大変だったんですか?」
王都に行く時に何度か夜営をしたけど、特別大変ということはなかった気がする。
まあ、みんな上級冒険者だったから夜営に慣れていたのかもしれないが。
「私たちの時は旅行気分で出発したからね。特別夜営の準備なんてしてなかったのよ」
「でも、護衛はついていたんですよね?」
「そうだけど、わざわざ私たちみたいな庶民の為に率先して色々やってくれる冒険者なんて稀よ? まあ、ユウキ君やフローラさんは手伝ってくれそうだけどね」
確かに二人なら手伝ってくれそうだけど、今はそこの話ではないですよ。
「えっ、じゃあその時はどうやって寝たんですか?」
「馬車の中で雑魚寝よね。床も固いし虫もいるし、もうあんな目には遭いたくないわね」
「……大変だったんですねぇ」
ということは、僕たちも夜営があるのかもしれない。そして、夜営に慣れていない僕とユウキとフローラさんがいるのだから、ダリアさんと同じことが起きてもおかしくはないだろう。
「ソニンさんは慣れてるんですかね?」
「何度も出掛けているでしょうから、慣れているんじゃないかしら。でも、冒険者ほどではないはずだから上級冒険者の人によるでしょうね」
手伝えることがあれば手伝うつもりだけど、指示してくれる人がいるのといないのとでは効率も居心地の良さも変わってくるはずだ。
「そうそう! ジン君に提案があるんだけど」
「なんですか?」
突然思い出したかのようにそう口にしてきたダリアさんに僕は首を傾げながら内容を聞いてみた。
「冒険者ギルドでも口座を作ってみない?」
「僕がですか?」
「ジン君って色々と魔獣を倒しちゃったり、鉱石を持ってきたりしたじゃない? それで報酬の受け渡しをスムーズにする為にも必要なんじゃないかってね」
「口座ですかぁ」
まあ、あって損をするものでもないだろうし、ダリアさんやギルド職員の仕事が減るのなら作っていてもいいかな。
「簡単に作れるんですか?」
「ジン君の場合はクランに所属しているし、すぐに作れるわよ」
「分かりました、それじゃあお願いします」
そして、僕は冒険者ギルドで口座を作るとダリアさんにお礼を伝えてからその場を後にした。
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