完成と騒動

 しばらくレイピアを眺めていたのだが、見学している人がいたことを思い出して慌てて振り返る。

 すると、そこには呆けた様子の三人が立ったまま固まっていた。

 ……うん、この光景にも慣れたもんだね。


「みなさーん、出来ましたよー」


 僕の呼び掛けに一番早く復帰したのはヴォルドさんだ。


「お、おぅ、そうか。……しかしなんだ、その、鍛冶ってのは凄いんだな」

「あー、僕の鍛冶は他の人とはだいぶ違うみたいなんです」

「そうなのか?」

「ホームズさんも皆さんと同じような表情をしていましたから」


 次に復帰したのはダリルさんである。


「いやー、驚いたな! こんな素晴らしい光景を目にできるなんて、これだけでも今回の依頼を受けたかいがあったってもんだよ!」

「いやいや、ちゃんと交渉もしてくださいね? ゾラさんとソニンさん、それに護衛をしていた冒険者を助けることが一番の目的なんですから」

「もちろんだよ! 絶対に成功させて、ジンにたくさんの商品を卸してもらうんだ!」


 さすが商人、獲物を見つけた瞳で僕を見ているよ。

 そして、最後に復帰したのはアシュリーさんだ。とはいっても、復帰したのだがその口調はどこかおぼつかない様子である。


「……コ、コープス君、そのレイピア、持たせてもらっても、いいかしら?」

「どうぞどうぞ。というか、これはアシュリーさんのものですからね」


 僕はそう言ってレイピアを手渡す。

 手に取った瞬間、アシュリーさんの喉からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 僕が持った感じでも相当軽かったので、アシュリーさんからすると使い勝手が変わる可能性もある。

 何度か素振りをして感触を確かめているようだが、僕はどのような感想が出てくるのかを固唾をのんで見守っていた。

 そして——


「……こ、これ、一級品じゃないの?」

「なあっ! マ、マジかよ!」

「一級品って、ちょっと俺にも見せてくれ!」


 ダリルさんが鑑定をするようで、アシュリーさんはすぐに手渡した。

 やはりというか、ダリルさんも唾を飲み込み、刀身から柄までじっくりと、そして何度も視線を往復させてレイピアを鑑定していく。

 その手が若干震えているように見えるのは、きっと気のせいだろう。

 数分後、ダリルさんは声を震わせながら呟いた。


「……こ、これ、一級品じゃないよ」

「まさか! もの凄く軽くて、手に馴染んで、それでいて——」

「これ、超一級品。一級品を超えた一品になってる」

「「……へっ?」」

「えっ?」


 ちょっと待って、超一級品? 昨日キルト鉱石で打ったショートソードは一級品止まりだったよ?


「……あー、そっか。素材だね。さっき僕もそう思ってたじゃん」

「「「違うだろ!」」」


 うわー、ここでも声を揃えてそれを言われるんだねー。


「マジか、これはマジなのか! 夢じゃないよな? もしかして俺って、馬車が襲撃を受けた時に実は死んでるんじゃないのか?」

「現実ですから! 死んでませんからね!」

「さすがはゾラ様の秘蔵っ子ってことなのか? それだけで済ましていいことなのか?」

「そういうことにしておいてください。でも、僕はゾラさんやソニンさんよりも普通ですからね」

「こ、こんな凄いもの、貰えないわよ!」

「えー、それは困りますよ」


 このレイピアはアシュリーさんの手に馴染むようにイメージして作ったものだ。それを受取拒否されてしまったら、誰に渡せばいいんだよ。


「他にレイピア使いはいるんですか?」

「……いない、けど」

「じゃあ貰ってください。僕はその為に同行してるんですよ?」

「で、でも……超一級品って。私の全財産を叩いても買えない一品なのよ?」


 ここでもロワルさんみたいなことを言いますね。


「ヴォルドさんも言ってましたけど——」

「ちょっと待て!」

「えっ?」


 何故ここで話を止めるんですか、ヴォルドさん。


「あの時のナイフとはわけが違いすぎる」

「そうですか? 依頼主は僕たちだから何も変わりませんよ?」

「武器の質が違い過ぎるんだよ!」

「そうだな。さすがにこれほどの一品を差し出すとなれば問題が出てくる」

「ダリルさんまで」


 だが、打ってしまったものは仕方がない。

 魔法鞄マジックパックの肥やしにするにはもったいない一品だし、誰かに使ってもらいたいんだけどな。


「——どうしましたか?」


 そこに救世主が現れた——ホームズさんだ。

 僕はここまでの流れをかいつまんで説明したのだが——


「……まさか、超一級品まで打ってしまいましたか」


 あれ? まさかの反応に僕の予定が崩れてしまった。

 これくらいどうってことないですよ。的な感じで言ってくれると思っていたのに、まさか考え始めてしまったよ。


「超一級品というのは、本来リューネさんを通して販売するものなんです」

「ということは、ゾラさんやソニンさんと同じようなものってことですよね?」

「そういうことです。その品には金貨が動くのは当然ですが、ものによっては大金貨が動くこともあります」

「だ、大金貨……」


 僕はここまで聞いて、自分が打った代物がどれだけ貴重なものなのかを初めて知った。

 魔法鞄をホームズさんから貰う時には僕だって二の足を踏んだのだから、アシュリーさんだってそうだろう。

 それも今はパーティ行動中である。一人だけ超一級品を打ってもらい、それをタダで貰ったとなれば確執が生まれてしまう可能性もあった。


「でもこれ、アシュリーさんの手に馴染むようにって打ったものなんです。できればアシュリーさんに使ってもらいたいんですけど、ダメですかね?」


 アシュリーさんからも手に馴染むと言ってもらえた一品なのだ。

 どうにかできないかホームズさん、ヴォルドさん、ダリルさんの順に視線を向ける。


「パーティとして、諍いの元になるものは避けたい」


 そう断言するのはヴォルドさんだ。パーティリーダーとしては当然の判断だろう。


「ちなみにだ。小僧はどういった武器だったら打つことができるんだ?」

「……えっ?」


 次に発せられた言葉の意味が理解できず、僕はすぐには答えられなかった。

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