夜営・鍛冶
そのアシュリーさんだが、何故かとても照れくさそうにこちらを見ており、その手には
何かしただろうかと首を傾げていると、ずいっと細剣を差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします!」
「へっ? あ、はぁ」
て、照れ屋さんなのだろうか。
とりあえず細剣を受け取った僕は鞘から抜いてじっくり見ていく。
とても細く、そして軽い。刀身はシンプルかつ丁寧に作られており、造形としては鍔と柄の部分が凝られている。
鍔の一方から手の甲を覆うような形で柄の先端へ細く伸びる流線。柄にも一工夫されており、捻ってできるような形状が滑り止めの役割ということだろう。
そして、柄の太さもとても細い。
細剣は刺突を主とする武器で、かつ片手剣である。女性のアシュリーさんが握る為にこれだけ細く作られているのだろう。
僕は頭の中にあったイメージを少し変更していく。
独りよがりの武器であってはならない。使う相手のことを考えて、使いやすい武器を作らなくては。
今回の鍛冶は、練習ではなく本番、そしていわばオーダーメイドの作品になるのだから。
「……うん。アシュリーさん、ありがとうございます」
「もう、大丈夫なの?」
「はい。僕の中ではイメージを固めることができました」
そう言って
実際には打ったことがない素材なのだが、キルト鉱石も初めて打った時に成功できたので大丈夫だろう。という希望的観測も含むのだが、貰ったものは使った方がいいという気持ちもある。
翠色が美しい鉱石で、確か名前が——
「ライトストーンを使うの?」
そうそう、それそれ。
アシュリーさんの質問に僕は頷いてから答える。
「大前提として軽い、というのが僕が細剣を打つにあたり必要なことだと考えました。それと、鉱石のサイズ的にもこれはアシュリーさんが扱う武器に合ったサイズで細剣を打てると判断しました」
「コープス君って、ライトストーンも打ったことがあるんだね」
「ないですよ?」
「「「……えっ?」」」
あれ、そういう反応ですか?
「いやいやいやいや、ライトストーンって言ったら結構貴重な素材なんだけど、それを一発本番で打つのかい?」
「キルト鉱石の時も一発本番で出来たので、まあいけるかなと」
頭を抱えてしまったのはダリルさんである。
商人ということで博打的な行動に貴重な素材を使うのがダメなのだろう。
「わ、私の武器にこんな貴重な素材を使う必要ないわよ?」
「でも、提供された素材ですし、使わなかったらもったいないじゃないですか」
アシュリーさんはポカンとした表情を浮かべてしまう。
「……くくくっ、がははははっ! やっぱり小僧は面白いな! 貴重なライトストーンで一発本番の鍛冶をするとは!」
「そうは言いますけどねヴォルドさん。誰にでも初めては存在しますよ。それが今なのか、後なのか、それだけの違いです」
「確かに小僧の言う通りだな! ダリルさん、諦めなよ!」
唯一僕がライトストーンで打つことを認めてくれたヴォルドさんの言葉に、ダリルさんは渋々頷いてくれた。
「絶対に、絶対に成功させてくれよ!」
最後にそう付け加えられたけど。
「それじゃあ、始めますね」
僕はライトストーンを土窯の中心に置くと、火を点す。火力はキルト鉱石を打ったときと同様に徐々に上げていく。
貴重な素材と言っていたので融点も高いものと思っていたのだが、意外にも黄色い炎の段階で溶け始めた。
細剣用に作った簡易型に溶けたライトストーンが流れ込み、様子を見ながら鋏を使って簡易金床に乗せたのだが——なるほど、これがライトストーンの特徴ということか。
キルト鉱石もそうだったが、ライトストーンはそれよりも速く冷え固まってしまう傾向にあるようだ。
無属性魔法を発動して力強く、かつ素速く槌を振るって成形していく。凝固状態を見ながら再度窯の中に戻して熱し、すぐに取り出して再度槌を振るう。
静かな森の中に響く槌の音。端から聞けば異様な音かもしれない。
賊がいるのなら、夜営している場所を教えているようなものだろう。
だが、今の僕はここで全力で槌を振るっても安心だと心の底から思っていた。
それは、ホームズさんやヴォルドさんたちの存在が大きいだろう。
賊が現れたとしても、暗殺者が現れたとしても、追い返してくれる、守ってくれる。
その安心感があるからこそ、僕は槌の音が響く森の中でも全力で鍛冶に集中することができるのだ。
再び熱し、そして打つ。
美しい翠の鉱石。その色を利用しない手はないだろう。
刀身の外側を薄い翠が包み込み、中心へ向かうと濃い翠が花開く。
ハーフエルフはリューネさんもそうだったけど、やはり種族特性なのだろうか、見目麗しい人が多いと思う。アシュリーさんもその例に漏れることはない。
濃い翠が花開くと表現した通り、中心部分には四枚の花弁をモチーフにした模様が刻まれるように強くイメージする。
鍔と柄に関しては金属を加工する技術を習っていないので、今まで通りに一つの金属から作り上げていく。
とは言っても、ナイフもそうだが鍔と柄の部分はイメージ力がものをいう箇所のようで、毎回水に付けて完成した作品を見るとその通りに出来ている。
アシュリーさんが現在使っている細剣の形状を強くイメージしながら、なおも刀身を打っていく。
——どれほどそうしていただろうか、最後に桶の水にライトストーンを浸す。
素材の質も関係していたのかもしれない。ユウキに上げたファンズナイフ以外は失敗作の素材を使っていたのだから。
初めて鍛冶をした時に似た光が水の中から弾け飛ぶ。
鍛冶を間近で見つめていた三人からは感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
その中でも、僕は細剣を取り出すまでイメージを崩すことなく、光が収まったのを確認してからゆっくりと完成した細剣を取り出した。
「……よし、上手くいった」
出来上がった細剣を眺めて思う。
翠の刀身が炎に照らされて、美しい輝きを放っていた。
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