冬支度⑥

 次にやって来たのは冒険者ギルドである。

 ここではダリアさんにお礼の品を渡す予定で、タイミングが合えばユウキとフローラさんにも渡しておきたい。

 中に入って様子を伺うと、ダリアさんはいたにはいたのだが忙しそうにしている。

 仕事の手を止めさせるわけにはいかないのでしばらくはバレないように様子を見ていることにした。


「あれ? ジン、何をしてるの?」

「わふわふ!」

「あっ! ユウキにフルム!」

「ピキャキャン!」


 タイミングが合えばと考えてはいたもののすでに切り上げていると思っていたので、ユウキの登場には正直驚いてしまった。


「ちょっとダリアさんに用事があってね。それと、ユウキとフローラさんにも……って、フローラさんは?」


 パーティで行動しているユウキとフローラさんは基本的にセットだと勝手に考えていたのだが今日は姿が見当たらない。

 どうしたのだろうとユウキに視線を向けると、苦笑しながら理由を教えてくれた。


「魔獣討伐の証明部位を提出しに行っているんだ。今日は数が多くて結構狩ったんだけど、僕が疲れているだろうからって気を利かせてくれたんだ」

「そうだったのか。フローラさん、優しいんだね」

「わふわふ!」

「ピッキャキャー!」


 ガーレッドがフルムと遊びたがっていたので降ろすと足元で戯れ始めた。

 周囲からは温かい視線が集まっており、幼獣二匹は何処にいても癒しを振りまいてくれる。

 その間に僕は冒険者ギルドを訪れた理由をユウキに伝えた。


「お礼? ジンは気配りの人だね」

「どちらかと言えば自分勝手な人だと思うよ」

「……言われてみるとそうだね」

「おいおい!」

「あはは、冗談だよ。でも、本当に僕が貰っていいのかな? すでに貴重な武器をたくさん貰っているんだけど」


 ユウキが腰に差しているのは僕がラトワカンで打ったブレイブソードである。

 素材はヒューゴログスであり、ソニンさんが錬成時に風属性付与を施してくれた超一級品の剣。

 中級冒険者になったことで魔獣討伐依頼を積極的に受けているようだが、このタイミングでブレイブソードをあげられたのはよかったと思う。

 魔獣の群れと戦っている時に以前の武器が壊れてしまったら手元に残るのは、これも僕があげた銅小刀だけになっていたかもしれないのだから。

 ブレイブソードなら簡単に壊れたりしないだろうし、むしろ上級魔獣と相対してもやり合えるだけの剣だと僕は思っているのだ。


「今日渡すのはお礼の品で、感謝の気持ちなんだ。武器ではないから貰ってくれると嬉しいかな」

「武器じゃないものをジンから貰うって、なんだか珍しいね」

「確かに鍛冶バカだけど、錬成だって見習いを卒業しているんだからな!」


 僕は鍛冶バカであり、錬成バカであり、生産バカなのだ。


「お待たせしました! あっ、ジン様もいらっしゃったんですね!」

「お疲れ様です、フローラさん」

「お疲れ様ー! 今日は二人とダリアさんに用事があってね」

「私にもですか?」


 首を横にコテンと倒したフローラさんに微笑み返し、どうせならとダリアさんにも声を掛けて一緒に手渡したいと説明する。


「でも、ダリアさんは忙しそう……あれ?」

「どうしたんですか、フローラさん?」

「あっ、ダリアさんがこっちに気づいたみたい」


 フローラさんの声に顔を上げるとダリアさんがこちらに向けて手を振っていた。

 挨拶をしてから仕事の状況を聞いてみようかと窓口へと向かい、僕たちは簡単な挨拶を済ませると時間があるか聞いてみる。


「お仕事は終わりそうですか?」

「あとは日報だけだからすぐに終わるわよ。今日はジン君までいるのね」

「僕たちとダリアさんに今年一年のお礼の品を渡したいそうです」

「お礼? ……むしろ私がジン君に」

「あー、うん。みんなからそう言われているのでもういいです」


 このやり取りだけで今日何回目だろうと思い先に口を挟んでしまう。

 ダリアさんは首を傾げているが、それでいいと思いながら僕は魔法鞄から錬成した置物を取り出した。

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