冬支度⑤
本部を出てから真っ先に向かったのは役所である。
この時間からギリギリ空いているだろうし、リューネさんなら暇を持て余しているだろうと予想していたのだが……うん、予想通りだったよ。
「まーた頬杖ついて暇してるんですか?」
「あら、ジン君。こんな時間にどうしたの?」
眠そうな顔のままそう口にしたリューネさんに苦笑しながら、僕は今年一年お世話になった人へ挨拶回りをしているのだと伝えた。
「それで私のところに来てくれたの? 何て言うか、律儀だねー」
「そういうリューネさんはしないんですか? 職場の人とか、上司もいるでしょうに」
「簡単な挨拶はするけど、ここで顔を合わせたらって感じね。わざわざ私から出向くとかはしないわよ」
おいおい、それって社会人的にどうなんだろうか。
まあ、挨拶回りを強要してないからセーフなのかもしれないな。
「それと、挨拶だけじゃ味気ないのでお礼の品を作ってみたんですよ」
「えっ! お金になるもの!」
「……やっぱり取り消していいですか?」
お礼イコールお金になるものって、酷くないかね、マジで!
「あはは、冗談よ、じょーだん! ジン君が丹精込めて作ってくれた品を売るとか絶対にしないから!」
今までの発言を聞いているからか、説得力が全くないんだよなぁ。
「あら、信じてませんって顔ね」
「そりゃまあ、仕方なくないですか?」
「……ジン君もなかなか酷いことを言うわね」
お互いに笑い合いながらのやり取りに周囲からはなんだろう? という視線が向けられているが気にしない。
特にシリカさんからはまたリューネさんが飛び出さないかという感じで監視の視線が強くなっている気すらするんだけど。
「……リューネさんって、締め作業まで逃げ出しているんですか?」
「逃げているんじゃないわよ、仕事を任せているの」
「酷い言い訳ですね」
「ふっふっふー! 人に仕事を任せるのも先輩の務めだからねー」
一人で仕事を抱えないのは確かに良いことなんだけど、何故か納得しきれないんだよなぁ、リューネさんが言うと。
「んじゃまあ、これなんですけどね」
「うわー、めっちゃ軽い感じで渡すのねー」
「誰のせいですか、誰の!」
僕は嘆息しながらも魔法鞄からお礼の品を取り出した。
以前から打ったナイフでもいいからと言われていたが、ここは丹精込めて作った錬成品を手渡すことにする。
リューネさんの髪の色と同じ翠色をした素材を使ったのだが、正直形に迷ってしまった。
カミラさんやノーアさんみたいに花をモチーフにした置物でもよかったのだが、どのような花にすべきか分からなかったのだ。
というわけで、実際に見たことも聞いたこともないのだが、僕の知識の中にあるような精霊? 妖精? を形作ってみた。
もし気に入らないようなら別で新しいものを作ってもいいと思っているのだが、果たして反応はどうだろうか。
「へぇ……これって、精霊かしら?」
「一応、そうですね」
「ジン君って精霊を見たことあったの?」
「ありませんよ。知識にあるイメージだけで作ってみました。もし全然違ってたり、気に入らなかったら作り直しますけど?」
「……ううん、とっても気に入ったわ。見たことあるんじゃないかって思うくらいに良い出来になっていると思うわよ」
掌サイズの大きさで、人の形に背中には羽が生えた精霊さん。妖精の方が近いのかもしれないけど、このような形の精霊もいるのであれば結果オーライである。
何よりリューネさんが喜んでくれたのが嬉しかった。
「……エルフはね、何よりも精霊を重んじる傾向にある種族なの。だから、こうして美しく形作られると真理の部分でとても喜んでしまうのよ」
「そうだったんですね」
「それに、こういったものがあると精霊自体も喜んでくれるのよ」
「えっ! ここにもいるんですか?」
「自然が少ないから比例して精霊も少ないけど、それでも確かにいるわ。みんな、ジン君に感謝している見たいよ」
僕は周囲に視線を配ってみたが……うん、やっぱり見えないや。そう簡単に見えたら苦労はしないよな、うん。
でもリューネさんが言うなら間違いないだろう。この人は冗談っぽく言うことは多いけど嘘は言わない人だから。
「……そっか、喜んでもらえたなら嬉しいです」
「本当にありがとうね、ジン君」
「はい。……売らないでくださいね?」
「い、今の話の流れで売るわけないでしょうよ!」
「あはは、確かにそうですね!」
笑って誤魔化した僕は冒険者ギルドに寄ると言ってその場を離れようとした。
「あっ!」
「どうしたの、まだ何かあるの?」
「……ちゃんと最後まで仕事してくださいね?」
「ジン君、酷いわね!」
「あはは! 来年もよろしくお願いしますね、リューネさん!」
最後を冗談で締めくくり、僕は役所を後にした。
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