冬支度④

 次に向かったのは食堂である。

 ここにはルルとミーシュさんがいるので二人にお礼の品を手渡せればと思ったんだけど、まずはお昼ご飯を食べることにした。


「こんにちはー!」

「ピッキャキャーン!」

「おや、今日はゆっくりだったんだねぇ」


 台所から顔を出してくれたのはミーシュさんだ。

 事務室にいた時点で朝の六の鐘が鳴っており、今は七の鐘が鳴る少し前だった。


「ガーレッドはお腹ペコペコなんじゃないのかい?」

「ビギャーン」

「どうやらその通りみたいです」

「そりゃそうだろうね。よし、すぐに用意するから待ってなよ。ジンはおすすめランチでいいのかい?」

「お願いします!」

「ピキャン!」


 人が少ない食堂で、僕はカウンターから一番近いテーブルに座るとガーレッドを膝に乗せて料理を待つ。

 そういえばルルの姿が見えなかったけど今日は休みなのか、それとも休憩でどこかに行っているのだろうか。

 そんなことを考えていると、注文を受けてくれたミーシュさんが料理を運んできてくれた。


「もしかして、もう終わりでしたか?」

「片づけはしてたけど、すぐに作れるようにいつも準備はしているからね」

「ありがとうございます」

「あはは、これが仕事だからね。それよりも、ガーレッドが早く食べたそうに見てるから食べさせてあげなよ」

「えっ?」

「ビー……ギャー……」


 お、おぉぅ、涎まで垂らしている姿はなかなかお目に掛れないかも。というか遅くなってごめんね、ガーレッド。

 僕が手ずから野菜を与えるとガーレッドは一心不乱に食べ始めた。


「……も、もう一本食べる?」

「ピギャン!」

「あはは! これだけ食べてくれたら新鮮な野菜を仕入れるのも楽しくなるよ!」


 大きく笑いながらミーシュさんも自分用に持ってきていた料理を食べ始めたので、僕もガーレッドに食べさせながら食事を始める。

 いつもと変わらずとても美味しく、そしてこの味をキープしているからこそ『神の槌』の職人は全員が力を発揮できているんだろうな。

 ……うん、やっぱりミーシュさんは凄いよ!


「ごちそうさまでした!」

「ピキャキャンキャン!」

「それはよかったよ」


 普通なら食事を終えるとそのまま食堂を後にするのだが、僕の本来の目的は食事ではない。


「ミーシュさん、今年一年本当にお世話になりました。これ、もしよかったら受け取ってくれませんか?」

「ん? これはなんだい?」

「以前にプレゼントした包丁は質が良すぎたので食堂で使っているでしょう? これは正真正銘にミーシュさんの為に作った包丁です!」


 まあ、今の僕が鍛冶をすると前回の包丁よりも当然ながら質の良い物ができてしまうのだが、これは一年間のお礼の品になるのだから気にしない。というか、受け取ってもらわないと困るのだ!


「これはまた……凄い包丁だねぇ」

「絶対に貰ってくださいね! これは、ミーシュさんの為に、ミーシュさんのことを思って打った包丁なんですから!」

「……ありがとね。それじゃあ、これはあたいがちゃんと貰って家で使わせてもらうよ。他の子に見られないようにしないとね」


 そう口にしているミーシュさんの表情はとても優しい笑みを浮かべている。

 その表情を見ているだけで僕の心は温かくなり、このお礼の品を作ってよかったと思えたよ。


「それじゃあ、僕は行きますね。来年も美味しい料理をよろしくお願いします」

「ピキャキャー! ピッキャキャーン!」

「もちろんさね。ジンもガーレッドも良い年越しを迎えるんだよ!」


 そのまま食堂を後にしようとしたのだが、ミーシュさんに呼び止められて振り返る。


「ルルは晩ご飯の時に来るから、その時に声を掛けてやりなさいよ!」

「分かりました、ありがとうございます!」


 もう一度頭を下げた僕は食堂を後にして、今度は本部から外に出て回ることにした。

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