冬支度③

 ──コンコン。


『──どうぞ』

「失礼します」


 返事を聞いてドアを開けると、椅子に腰掛けて本を読んでいるソニンさんがそこにはいた。


「おや、コープス君ではないですか、どうしたのですか?」

「年末の挨拶回りをしているんです」

「うふふ、それは感心なことですね」


 そんな感じで簡単な挨拶を済ませた僕は、お礼の品を渡すという本題に入ることにした。


「これ、今年お世話になった人たちへ渡しているんですけど、よければソニンさんにもと思いまして」

「おや、これはなんですか?」


 ソニンさんへ手渡したのはちょっとだけ工夫を凝らしたペンダントだ。

 ヒューゴログスとアクアジェルを組み合わせて作ったのだが、混ぜ合わせているわけではなくそれぞれを捻りながら組み合わせたのだ。

 薄緑と薄青には透明感もあり、置物としても素晴らしい一品になったと自画自賛しているが、ソニンさんの評価はどうだろうか。

 僕はドキドキしながらその評価を待っていたのだが……何故だか何も言わずにただペンダントを眺めているだけである。

 ……あれ、これは何かやってしまっただろうか。


「……コープス君、あなたという人は」

「えっと、特に変なことをした覚えはないんですが?」

「……いえ、せっかくのお礼の品なのですから、ありがたくいただきたいと思います」

「……は、はぁ」

「それと、こういうものはあまり人前に出してはいけませんよ? これだけ凝った品は他にもあるのですか? あるなら渡す相手をしっかりと──」

「だ、大丈夫ですよ! これほど凝った品はありませんし、相手もお世話になった人しかいませんから!」


 いきなりのお説教モードに焦ったものの、僕はなんとかソニンさんを宥めることに成功した。

 そこからは少しばかり今年一年を振り返っての昔話になったのだ。


「それにしても、コープス君が『神の槌』に加入してまだ一年経っていないんですね」

「今年の途中でしたから、そうですね。……そう言えば、僕が拾ってもらったのって一年のどの辺りだったんですか?」


 あの時はこの世界のことを何も知らなかったからなぁ。四季はあるみたいだけど、どの辺りだったのかまではいまだに分からない。


「夏でしたね。あの時は本当に驚きましたよ。あの暑い日差しの中、子供一人であの草原に立っているんですから」

「そりゃ驚きますよね」

「場合によっては、魔獣が人に化けて獲物を狙っていると思われたかもしれませんよ?」

「……おぉぅ、それはマジでご勘弁を」


 僕が本気で嫌そうな顔をするとソニンさんはクスクスと笑っていた。


「ですが、ゾラ様の一言がなければ本当にそうなっていたかもしれませんし、奇跡に近かったかもしれませんね」

「それもこれも、英雄の器のおかげなんでしょうねぇ」


 正直、このスキルがなければどうなっていたのか分からない。

 良い巡り合わせに出会える、というのはよくよく考えると一番重要なスキル効果だったかもしれない。


「……ソニンさん。改めてになりますが、僕を見つけてくれて本当にありがとうございました」


 あの出会いがなければと考えたことは一度や二度ではない。お礼だって何度でも言いたい気持ちなのだから、年の最後くらいは改めて口にするのも悪くないだろう。


「こちらこそ、コープス君のおかげで『神の槌』はとても良い方向へと変わってくれました、ありがとうございます」


 ソニンさんも僕に対してお礼を口にする。

 まだまだ恩返しできたとは到底言えないけれど、僕にできることは来年もしっかりと取り組まなければならないと思うことができたよ。


「これから別のところにも寄るのでしょう?」

「はい。カズチやルルもそうですし、ミーシュさんにもお世話になりましたから」

「そうですね」

「それに、リューネさんやダリアさん、他にも何人か──」

「コープス君?」


 ……あれ、どうしてそこで声音が低くなるんだろうか。僕、何か変なことを言ったっけ?


「……なんでしょうか?」

「本当に、変な凝り方はしてないんですよね?」

「してませんってば! ……あー、でも、カズチとルルのは凝ってるかも。で、でも、僕のスキルを知ってますし、『神の槌』の中ですからいいですよね?」


 慌てて理由を付け足すと、ソニンさんは大きく溜息をついていたが最後には笑みを浮かべてくれた。


「カズチとルルさんなら、問題ないですね」


 僕はホッと胸を撫で下ろすと、頭を下げてからソニンさんの私室を後にした。

 ……何故だろう、最後の最後にドッと疲れた気がするんだが。

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