ただし、彼は破壊者の弟子

 ここにいること自体が珍しい中級魔獣。

 本来ならば逃げるが勝ちなのだろう。

 だが、ここには上級魔獣すら一人で倒してしまうほどの実力者が一緒なのだ──破壊者デストロイヤーが。


「何故この様なところにゴブリンウォーリアが?」

「やっぱりおかしいんですね」

「これは、どこかでゴブリンの巣が大きくなっている可能性がありますね」

「それって危ないんじゃないですか?」

「えぇ。討伐が終われば、部位を持ってギルドへ報告が必要になりますね」

「……二人とも、落ち着きすぎじゃない?」

『ギィヤハアアアアアアッ!』


 ユウキの呆れ声に続き、ゴブリンウォーリアが咆哮する。

 威圧のつもりなんだろうけど、僕には威圧が効かないみたいなんだよね。悪魔相手でもけろっとしてたし。

 ホームズさんは当然なんだけど、意外にもユウキまでが平然としている。

 ケルベロスや悪魔、さらにそこからも経験を積んで成長している証だろう。

 しかしそうなると、かわいそうなのがゴブリンウォーリアである。


『ギ、ギギギッ!』


 ……おぉ、魔獣が困惑する姿なんて初めて見たよ。

 それにしても大きな体である。ホームズさんが巣ができているって言ってたから、こいつはその巣のボスってことになるのかな。


「こいつを倒したら、巣にいる他のゴブリンが暴れませんかね?」

「しばらくはゴブリンウォーリアが倒されたことに気づかないでしょう。しかし、一日以上時間を空けると気づかれるかもしれないので、早急に巣を潰す必要はありますがね」

『ギギャアアアアアアッ!』


 僕たちが何もしてこないことがゴブリンウォーリアの神経を逆撫でして苛立ったのだろうか。

 右手に持つ巨大な斧を軽々と持ち上げると、体を捻りながら投擲してきた。

 僕の腰に右手を回してホームズさんが飛び退き、視界の中でユウキが逆側に飛んでいた。


「ユウキ、あなた一人で倒してみなさい」

「ぼ、僕一人でですか!?」

「今のあなたなら倒せますよ」

「……分かりました!」


 相手は二メートルを越える体躯を誇るゴブリンウォーリア。

 一撃でも浴びれば致命傷になるかもしれない相手とどのように渡り合うのか。

 ユウキが抜いたのは剣ではなくファンズナイフだった。


「あえて接近戦を挑むのか?」

「懐に潜り込んで、自分の舞台で戦おうとしているのでしょう」

「自分の舞台ですか?」

「無属性魔法を駆使して速度で勝り、手数で押していく。これが普通のナイフなら厳しい選択ですが、ユウキが持つのは超一級品のファンズナイフです」

「なるほど。中級魔獣が相手でも問題ない切れ味ってことですね」


 僕とホームズさんがいつもと変わらず会話をしている中、ユウキはすでにゴブリンウォーリアへ飛び掛かっていた。

 定石通りにまず狙うは機動力、足である。

 超加速からすれ違い様に足を斬り裂くと、取って返して逆の足にも傷を負わせる。


『ギヒヤァッ!』

「ふっ!」


 接近を許しては危険だと判断したのか、ゴブリンウォーリアはユウキの体と同じくらいの太さを持つ剛腕を振り回ます。

 しかし、ユウキは体勢を低くして剛腕を掻い潜ると、その剛腕にも斬撃を浴びせる。

 飛び散る鮮血を浴びながら、ユウキはファンズナイフを胸部に突き刺すと、そのまま刀身を横薙ぎして深手を負わせた。


『グヒアアアアアアァァッ!』

「まだまだ!」


 すでに致命傷に近いダメージを与えていると思ったのだが、ユウキはさらなる連撃を浴びせかけている。


「下級魔獣と中級魔獣の大きな違いがなんだか分かりますか?」

「分かりません」

「それは、生命力の違いです」

「生命力ですか?」

「中級魔獣と呼ばれる個体からは、致命傷だと思って気を抜いた瞬間に反撃に遭うことが多いのです。これは、生命力が高いのだと言われています」


 僕が思っていたように、横薙ぎの一撃が決まった時点で致命傷だと判断していたらゴブリンウォーリアの強烈な一撃が直撃していたかもしれない。

 その証拠に、ゴブリンウォーリアは横薙ぎを浴びてからもユウキと戦い続けている。


「……怖いですね」

「その点、ユウキは十分に理解しているようです」


 徐々にではあるがゴブリンウォーリアの動きが落ちてきている。

 元々速さで上回っていたのだから、こうなればユウキの独壇場だ。

 剛腕を振るう力もなくなり、足も動かなくなっている。

 止めを指すべくユウキが選択したのはリーチの長い主武装の剣だった。

 ファンズナイフに比べて小回りは利かなくなるものの、今のゴブリンウォーリアならば問題ないという判断なのだろう。

 駆け出したユウキ。

 動かないゴブリンウォーリア──だが、その眼光は鋭くユウキを見据えていた。


『グルアアアアアアアアァァッ!』

「ユウキ!」


 先ほどまでの鈍重な動きとは異なり、今までで一番鋭い動きでカウンターを狙ってきたのだ。

 僕の焦った声に対して、隣からは落ち着いたホームズさんの声が聞こえてくる。


「決まりましたね」

「えっ?」


 ユウキはゴブリンウォーリアの最後の抵抗を予測していたのだ。

 鋭く突き出された右腕の下に潜り込むと、無属性魔法を使った斬り上げで両断してしまう。

 その場で横に回転して遠心力を乗せた横薙ぎが放たれると、驚愕に目を見開いたゴブリンウォーリアの首が刎ねられた。

 残された体が一瞬だけビクリと震えたと思うと、一気に力が抜けて地面に倒れ込んだ。

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