鉱山で見つけたもの

 カマドを出てからは無属性魔法も用いながら鉱山へと向かう。

 何故こうまでして急ぐのかは聞けずじまいだけど、何かしら理由があるのだろうと思いとにかく進んでいく。

 普通に歩くと数一〇分掛かる距離を、僕たちは五分ほどで到着した。


「場所は以前にユウキとキルト鉱石を取りに来た坑道ですね?」

「そうですけど……どうしてそこまで急ぐんですか?」


 立ち止まったことでようやく質問することができた。


「確証はないので、まずは急ぎましょうか」


 だが、ここでも明確な答えは返ってこない。


「師匠、どうしたんですかね?」

「分からない。だけど、なんだか楽しそうなんだよね」

「そうなの?」

「うん。なんて言うか、新しいものを発見できるかもって感じで、わくわくしてるように見える」


 僕の勘違いかもしれないけど、もしそうなら悪いことではないと思う。

 ここでは人目もあるので無属性魔法は使わずに普通の速度で、それでもなるべく早く進んでいく。

 途中で遭遇した魔獣はユウキがあっさりと両断してしまう。

 ここで気づいたのだが、ユウキはファンズナイフを駆使して魔獣を倒している。

 その身のこなしは様になっており、ナイフ術を身に付けようと頑張っているのが一目で分かった。


「ユウキ、凄いね。ナイフも得意になったんじゃないの?」

「まだまだだよ。それに、剣だってまだ身に付いてないんだからね」

「ファンズナイフほどの武器があれば使いたくなるのも分かりますよ。まあ、ナイフは護身用として忍ばせることもできますからね、習っておいて損はないですよ」

「あっ! そういえばキルト鉱石で打った剣を返すのを忘れてたよ!」


 この剣があれば、ユウキは相当戦いやすくなるんじゃないだろうか。

 そう思っていたのだけど、ユウキの表情はあまり優れない。


「……あの剣、目立つからなぁ」

「……ですね。黄色とはいえ、金色に近い黄色ですからね」


 ホームズさんも同意見のようで大きく頷いている。

 うーん、そうなるとゾラさんにお願いしてどこかしらで販売に出してもらうしかないかもしれないな。


「さて──着きましたね」


 会話をしながらだったのであっという間に坑道へ到着した。

 僕が松明役になり火を点すと、ユウキが魔獣の気配を探りながら奥へと進んでいく。

 昨日ラウルさんとロワルさんが言っていた通りに魔獣と遭遇することもなく、僕たちは以前フローラさんと三人で進んだ広場までやってきた。


「前回はここから引き返したんだよね」

「うん。この三本線を見て、危ないって判断したんだ」


 先人が刻んだ危険度を示す三本線。

 おそらく穴の先はこの奥に繋がっているはずなんだよね。


「ビギャー! ビビー!」

「ガーレッドはこの先に行きたいみたいです」


 両手を鞄から出して前へ前へ行こうとパタパタさせている。この先に何があるのだろうか。


「……師匠。この先には魔獣の気配がありますね。それも、結構大きいです」

「そうなの?」

「よく分かりましたね。たぶん、昨日から今日にかけてこの奥にやって来たのでしょう。ですが……ふむ、この辺りではあまり見ない魔獣のようですね」

「見てないのに分かるんですか?」

「だいたいの検討はつきますね」


 おぉ、なんか凄い。

 そういえばユウキも大きいってサイズを口にしていたし、気配が分かるようになればそんなこともできるのか。


「とりあえず行ってみましょう。私が先頭で松明役になります」

「分かりました。ジンはその後ろで、僕が殿になるね」

「了解」

「ビギャー!」


 僕たちはさらに奥へと足を運んだ。

 空気が薄くなり、涼しくなっているにも関わらず何故か汗が滴っていく。不思議な緊張感がこの奥から伝わってくるのだ。

 それだけでも三本線が引かれた意味を理解することができる。


「前回ここに入った時はどうだったの?」

「バルラットの群れと、その中に他の魔獣も混ざっていて大変だったよ。だけど……」

「だけど?」

「……この緊張感はなかったかな」

「それって、ってこと?」


 前回はいなくて今回はいる。それも僕だけではなくユウキにも緊張感を与えるほどの魔獣が。


「分からない。分からないけど──」

「二人とも」


 そこまで口にすると、前で警戒していたホームズさんから声が掛かった。

 僕たちは口をつぐみ視線を向ける。


「……奥に、中級魔獣がいます」

「……中級魔獣がこんなところに?」

「……珍しいんだね」


 小声で話をしながら、僕たちは曲がり角から顔を覗かせる。

 そこには体長が二メートル以上を誇る肥え太った人形ひとがたの魔獣が鎮座していた。


「……あれは──ゴブリンウォーリア!」

「ビビービビギャー!」

「ちょっとガーレッド!」


 ユウキの小声と重なるように、ガーレッドがさらに奥を指差しながら声を上げた。

 慌てて口を押さえたものの、もう遅い。

 恐る恐る顔を上げると、ゴブリンウォーリアは完全にこちらを見据えていた。

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