唖然と相談
二人が買い出しを終えてから鉱山の奥へ出発した僕たちは、以前にユウキとフローラさんと訪れた洞窟の手前までやってきた。
周囲には人の気配だけでなく、魔獣の気配もないということで、この場でお披露目することになったのだが――
「と、とりあえず、ガーレッドに食べさせていいか?」
「ガーレッドも我慢できないだろ?」
「ピー、ピピー!」
ということで、ナイフよりも先にガーレッドへのご飯タイムが始まってしまった。
溜息をついているヴォルドさんだったが、二人はガーレッドとの戯れも楽しみの一つだったのだと主張してきたので断れるはずもない。
だって、可愛いは正義なのだから。
しばらくご飯タイムが続くと、お腹いっぱいになったのだろうか、ガーレッドが口を開かなくなってきた。
ご飯タイムが終了となり、ようやくナイフのお披露目である。
「お前ら、ナイフを見ても驚くんじゃねえぞ?」
「「……は、はい」」
ヴォルドさんの脅しにも似た言葉に、二人は緊張した声を漏らす。
そこまで緊張することでもないと思うんだけど、そう感じたのは僕がナイフを打った本人だからだろうか。
そんなことを考えながら、僕は最初にミスリルのナイフと取り出した。
「……えっ? これ、マジ?」
「……ジンが打ったのか? ゴブニュ様じゃなくて?」
「俺も見ていたが、これは正真正銘小僧が打ったナイフだ」
ここまで驚いてくれるとは思っていなかった。
しかし、ということはアスクードのナイフを見せたらもっと驚くんじゃないだろうか。
僕は一度ヴォルドさんに視線を送ると、一つ頷いてくれたのでそのままアスクードのナイフも取り出した。
すると、今度は言葉も出ないのか口をパクパクさせたまま視線をアスクードのナイフに固定している。
……いや、何か言ってくれないと僕も困るんですけど。
「だから言っただろう。驚くんじゃねえって」
「……いや、いやいやいやいや、これは驚くとかの問題を通り越してあり得ませんから!」
「ミスリルのナイフでも分不相応だったのに、アスクードのナイフでこれって、マジでヤバいですから!」
「えっ、いらないんですか?」
「「いります!」」
「……あっ、そうですか」
しかし、二人のリアクションを見ていると、やはりアスクードのナイフがより良く仕上がっているのだと分かっているようだ。
誰がどのナイフを持つのか、どうやって決めるんだろうか。
「……と、とりあえず、一緒に欲しいナイフを指差すぞ」
「……そうだな。被ったら、それはそれで相談な」
そんなことを言いつつ、双子ならではのシンクロを見せて同時に深呼吸をした後、それぞれが欲しいナイフを指差した。
「……えっ?」
その結果は、僕の予想外の結果だった。
「二人とも、ミスリルのナイフがいいんですか?」
ランクが高いアスクードのナイフではなく、ミスリルのナイフを二人とも指差している。
「あー、まあ、今の俺にはこっちの方がいいかなって思ってさ」
「俺も同感。アスクードのナイフは良すぎて、使いこなせるか心配だな」
まさか、より良くしようとした結果、成功したナイフには誰も寄り付かなくなるとは思ってもいなかったよ。
「おいおい、何をそんな弱気なことを言ってるんだ? せっかく上級になったんだから、これを使いこなせるくらいにならねえとダメだろ」
「だ、だけどですね、ヴォルドさん」
「これって、超一級品ですよね?」
「そうだな。ゴブニュ様も太鼓判を押してたぞ」
「「やっぱり!」」
「そんなに嫌なら、俺がもらってやろうか?」
「「ダメですよ!」」
頭を抱え始めた二人を見て、このままでは決まらないと判断した僕は、一枚の銅貨を取り出した。
「表が出たらラウルさん、裏が出たらロワルさんがアスクードのナイフを貰ってください」
「運かよ!」
「でも、決まりませんよね?」
「ぐっ! ……まあ、そうだな」
「なら決まりだ。ったく、二人で決めろよな」
「「こんなん無理ですよ!」」
どうやら二人には荷が重かったようだ。
でも、将来的にはランクの高いアスクードのナイフの方が良いに決まっているし、最悪の場合は売ってしまってお金にしても構わないのだ。
個人的にはお金にされると悲しいけれど、使い方は人それぞれである。
「それじゃあ、いきますよ?」
ゴクリ、と唾を飲み込む二人。
いや、そこまで緊張することじゃないよね、これは。
そんな二人に構うことなく指で上に弾いた銅貨を、タイミング良く右手で掴んで左手の上に載せる。
そして、ゆっくりと右手を開いた結果──
「ミスリルのナイフがロワルさんで、アスクードのナイフがラウルさんですね」
ホッとしているロワルさんとは対照的に、アスクードのナイフを手渡されたラウルさんは顔を強ばらせている。
「……売っちゃったら?」
「「「できるか!」」」
おぉぅ、ヴォルドさんも含めて三人で言わなくても。
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