依頼品の錬成と鍛冶

 僕は部屋に戻るとそのまま錬成部屋へと向かう。

 部屋の中心の置かれた机の上には錬成台があり、その上にまず置いたのは剣の素材となるアダムナイトだ。

 ここで錬成を失敗してしまえば元も子もないので気を引き締めて着席する。

 意識を集中させてアダムナイトを見つめ、そして錬成を開始した。


「……うん、いい感じだ」


 最近は錬成も連続で三回くらいはできるようになっており、一日で一〇回は問題なくなっている。多少無理をすればもう少し回数を増やすことはできそうだけど、疲れから一度カズチが失敗していたのを見ているので自重する。

 無理をして失敗していては意味がないのだ。

 僕は初めての素材にもかかわらずアダムナイトの錬成を手際よく終わらせると、そのまま紅花石の錬成に取り掛かろうかと思ったのだが止めた。


「ここは鍛冶で剣を打ってからだな」


 紅花石を嵌める剣が完成していなければ大きさや形を決められない。頭の中にイメージはできているけど、イメージだけで完璧に仕上げることができるかは分からないのだ。


「一番確実な方法で作るべきだ」


 そう思い立ち上がると、僕は錬成部屋を出てそのまま鍛冶部屋へと向かう。

 僕の後ろをガーレッドが何も言わずについてきてくれている。

 錬成や鍛冶を見ているだけなので暇かもしれないが文句も言わずに待ってくれているのだから、やはりガーレッドは偉いと思う。……こういうのを親バカと言うのだろうか。


「……ガーレッド、炎晶石を食べとく?」

「ピキャ! ピーキャキャー!」


 だけど、ガーレッドへの申し訳なさが勝ってしまい炎晶石を食べさせることにした。

 何だか食べ物で釣っているような気もしないではないが、やっぱりご褒美は必要だよね、うん。


「よし! さっそくやろうかな!」


 腕捲りをして気合いを入れると、先ほど錬成を終わらせたアダムナイトを窯の中にゆっくりと置き、ここでも意識を集中させる。

 現状、僕が任せてもらえている仕事の大半が量産品ではなく依頼品を打つもので、いわば一点物を作ることだ。そのおかげでイメージ力も付いてきたからか最近では失敗もほとんどない。


「だけど、今回はユージリオさんからの依頼だからな。絶対に失敗はできないし、何より良いものを打ちたい!」


 自分に言い聞かせるようにして言葉にすると、目を見開いて窯に火を点した。

 魔獣素材を鍛冶したことで鉱石の鍛冶がとても楽に感じるようになっている。これは融点が低いということ以上に、素材から伝わる反発力が魔獣素材の方が明らかに強いからだ。

 無属性魔法を使うのも慣れてきたし、槌を振る分には問題は全くない。

 ただし、イメージに関しては毎回考えなければならないのでいまだに発展途上である。

 イメージ力が付いたとはいえ、そこに限界はないのだからいけるところまで突き抜けてみたいと思う。


 ユージリオさんの為に打つ剣は、当初思い描いていた通りに成形が進んでいく。

 刀身をできる限り薄くしながら表面に光沢を与える。鍔や柄の形はシンプルにしつつも、鍔の表面にはワンポイントで錬成予定の紅花石を嵌める爪を作り出す。

 当初の予定では紅花石を嵌めて爪を作る予定だったのだが、一度加工した素材は再加工できない為に却下された。

 そこでソニンさんからアドバイスをもらい、先に爪まで作っておくことにしたのだ。

 錬成が鍵を握るが、そこはやってみなければできるできないの判断は下せない。

 というか、やらなければいけないのだからやるしかないのだ。


「……よし、最後の、一振り!」


 僕は渾身の力を込めて槌を振り下ろすと、鍛冶部屋に心地よい音が響き渡った。

 水の中に剣を沈ませてから一秒も経たずに光が溢れだし、そして──剣は完成した。


「……おぉ、ほんとうに薄く出来上がったなぁ」


 想像通りなのだが、これ程に薄い剣は今まで見たことがない。厚みでいえば一センチもなく、それこそ刀と同程度の薄さになっている。

 直剣にしておくのがもったいないと思えるほどの薄さなので、今度刀を打つ時の参考にさせてもらおうかな。


「出来上がりはっと……うん、超一級品に仕上がってるな」


 ここでまずはようやく一息。

 鍛冶で躓くわけにはいかないので、失敗が減ったからとはいえ出来上がるまでは緊張が抜けないんだよね。

 でも、逆にいえばここまできたら最高のものを作るしかないってことだ。


「紅花石の錬成、そして剣に嵌める作業、絶対に成功させてやる!」


 僕が決意を言葉にしている姿を、ガーレッドが炎晶石をバリバリ食べながら眺めていた。

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