完成した依頼品
錬成部屋に戻った僕は改めて紅花石を眺めていた。
「それにしても、とっても綺麗な鉱石だなぁ」
透明度の高い鉱石で真紅に染まっているのだが、光に透かせて見るとその光が内部で反射して紅花石自体の輝きを増してくれている。
原石のままでこれだけ美しいのだから、錬成をすればさらなる輝きを見せてくれるだろう。
「出来あがった剣に嵌るよう、紅花石の錬成に関しては大きさと形にも気をつけないとな」
そう口にしながら紅花石を錬成台に載せ、その横の空いたスペースに出来あがった剣を置く。
しばらく紅花石が嵌る場所をジーっと見つめ、ようやく錬成に取り掛かった。
紅花石の錬成を行いながら気づいたことは、これがクランの素材として用意されているならカズチも使えるんじゃないかということだ。
群青色のケルン石と真紅の紅花石……最高じゃないか?
「……おっと、錬成に集中しなきゃね」
今は分解が終わり排除へと向かうところだ。
ここから浄化を行い構築に入るのだが、今回重要となるのは構築にある。
僕がやろうとしている方法とは、構築の段階で紅花石を剣に嵌め込むというものだ。
今までは錬成したその場所に構築した素材が残るのだが、排除の方法が様々あるということからこの発想は生まれた。
錬成台には錬成陣が描かれているので錬成自体はこの上でしかできないだろう。ただし、最後の工程である構築に関しては別の場所でも可能ではないかと考えたのだ。
仮に失敗したら剣から打ち直しになるのだが、不思議と失敗するとは思えない。自信過剰なのか、これも英雄の器による何かしらの効果なのか。
「……よし、排除も完了。次は浄化だ」
構築が最重要になるのだが、紅花石の美しさは浄化の優劣で決まる。元々重要な工程に当たる浄化は説明不要で大事な工程。
「……あぁ、浄化は何度見てもきれいな光景になるなぁ」
魔素が紅花石の中から光となって浄化されて飛んでいく。
真紅の液体になっている紅花石から光が溢れる光景は、ケルン石に勝るとも劣らない美しさを僕に見せてくれた。
「……浄化も、完了だ。最後に構築……絶対に、成功させるんだ!」
大きく息を吐き出し、気合いを入れ直した僕は視線を紅花石と剣との間でも何度も往復させる。
液体となった紅花石が渦を巻き、それが竜巻のようにしてせり上がると弧を描いて鉱石を嵌める為に作った穴へと吸い込まれていく。
質量も問題はない、形は……うん、完璧だ。紅花石は僕の思った通りの大きさ、形で剣の穴に嵌ってくれた。
しばらく出来上がった剣を眺めていたものの、ゆっくりと剣の柄を握り持ち上げる。
「……うん、出来た。これで、ユージリオさんの依頼は完成だ!」
最後にゾラさんのチェックが待っているものの、これでダメ出しを喰らったら今の僕にはやりようがなくなるので依頼を降りることになるだろう。
だけど、これだけの逸品を打つことができたのだからやり切ったと言える。
「よし、ゾラさんに見せに行こう!」
用事があればソニンさんへ先に見せるのもありだし、そっちも無理ならまた今度でもいいかな。でも……。
「は、早く評価をしてもらいたい! 今の僕にできる最高の逸品なんだから!」
うずうずしながら剣を魔法鞄に入れたのだが、ズボンの裾を引っ張られる感覚に下を向くとガーレッドが両手を広げてこちらを見ていた。
「了解だよ、ガーレッド! 今日は抱っこでゾラさんの私室へ向かおう!」
「ピーキャキャキャー!」
パタパタと両手を動かして喜びを表してくれたが―レッドを抱き上げると、僕は部屋を飛び出してゾラさんの私室へと向かった。
ドアをノックすると返事があり中へ入った。すると、そこにはソニンさんとホームズさんもいて好都合だった。
「ユージリオさんからの依頼品が出来上がりました! 今の僕にできる最高傑作です!」
「……お、おぉ、そうか。それでは、出してもらうかのう」
なんだかちょっと引かれているような気もしないでもないが、まあ出してと言われれば出しますとも。その予定だったからね!
「これです! アダムナイトで可能な限り薄く打ち上げてシンプルさの中に美しさを内包し、さらに紅花石を嵌めることでワンポイントの輝きを備えました! 剣としての機能もさることながら、やはり一日中眺めていられる美しさがこの剣の醍醐味ですね! どうですか、すごいでしょう、すごいでしょう?」
「はいはい、見た目は完璧じゃ。もう小僧が打つ剣に驚くのも慣れてきたわい」
「本当ですね。それに紅花石の錬成も完ぺきですし、鉱石の錬成に関してはもう言うことはないですね」
「全く、生きている間にゾラ様やソニン様と同等の鍛冶師や錬成師と出会えるとは夢にも思っていませんでしたよ」
「ホ、ホームズさんは大げさですって」
三者三様の意見を耳にしながらも三人は依頼品の剣を眺めている。そして――
「「「全く問題ない!」」」
あぁ、なんだか久しぶりに三人の声が揃った返事を聞いた気がしますよー。
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