年末に向けて

 僕はそのまま剣をゾラさんに手渡し、次の仕事について聞いてみた。


「他にもできることはありますか?」

「今年はもうないかのう」

「えっ! そうなんですか?」


 年末年始は仕事が休みになるのでみんなは忙しいと聞いていたのだが、何もしなくていいのだろうか。


「前にも言ったが、小僧が作ると質が良くなりすぎるからのう。一般に流通させることができなくなるんじゃよ」

「わざと質を落として作ることもできますよ?」


 鍛冶練習をしている中で、自分が作れる限界以下の作品ならば調整できるようになっている。見本の作品があれば、そちらに合わせて打つことも可能なのだ。


「いや、それはさせたくないのじゃよ」

「どうしてですか? みんな、大変なんですよね?」


 僕としては手助けできるのであればしたいのだが、ゾラさんが断る理由をホームズさんが説明してくれた。


「鍛冶師があえて質の低いものを打つのを、ゾラ様は良しとしていないんですよ」

「その意見には私も賛成しています。錬成もそうですが、わざと質の低いものを作ると、いざ質の高いものを作ろうとした時にいつもと違う感覚になることがあるんですよ」

「そういうことじゃ。それに、これは他の鍛冶師や錬成師の修業でもあるからのう。小僧が修行の機会を奪うことにもなってしまうんじゃよ」


 僕のことも、他の職人ことも考えてのことならば何も言うことはない。


「そうなると、僕は何をしたらいいんでしょう?」


 だが、やることがなくなったのも事実であり暇を持て余してしまいそうだ。


「もしよろしければ、事務作業のお手伝いをお願いしてもよろしいですか?」

「もちろんですよ!」


 最近ではホームズさんも僕への手伝いを気軽に頼んでくれるようになってきた。

 本来ならば事務員を増員してもいいかもしれないが、切羽詰まっているわけでもないのでホームズさんが遠慮しているようだ。

 僕の手伝いもギリギリだからというわけではなく、早く仕事を終わらせて事務員の二人を早く帰してあげたいという思いからだ。


「全く、休めるなら休めばいいものを。本当に働きたいみたいじゃのう」

「単に暇なんですよー」

「ガーレッドはこっちで遊びますか?」

「ピッピキャン!」

「僕と一緒に行くみたいですよ」

「あら、残念」


 冗談だったのだろう、ソニンさんは笑いながら手を振って見送ってくれた。

 僕はガーレッドを抱っこしたままホームズさんと事務室へ向かう。すると、そこでは一休みしていたのだろう、カミラさんとノーアさんがお茶を飲んでいた。


「戻りましたよ」

「失礼しまーす」

「ピキャキャーン」

「ガーレッドちゃんですね!」

「お疲れ様です~」


 一人だけ反応がおかしかったけど……まあ、仕方ないか。

 ガーレッドは警戒しているみたいだけど、悪い人じゃないから嫌がらないでね。きっと抱っこしたがるからさ。


「お手伝いに来ましたよ」

「ありがとうございます~」

「今日の分が終わったら、早く帰ってもらっても大丈夫ですからね。皆さんも年末年始に向けての準備もあるでしょう」

「分かりました! ……その前に、ガーレッドちゃんで充電させてもらってもよろしいでしょうか? よろしいでしょうか、ガーレッドちゃん、コープス様!」

「ビビビ~」

「いいよね、ガーレッド。あんなだけど、対応はいつも優しくしてもらっているでしょう?」

「……ピキュ」

「あはは、大丈夫だそうですよ」

「本当ですか! ありがとうございますううううぅぅっ!」


 ものすごく仕方ない感じが出ているのは内緒ですけどねー。

 二人がガーレッドに癒されている間は、僕とホームズさんでお茶をいただいている。

 他愛のない会話をしながら二人の充電が完了するのを待ち、事務作業に入っていく。

 その間のガーレッドは僕の横に椅子を持ってきて立たせている。仕事だということを理解しているのか、邪魔をしないからできる行動だよね。

 じーっと仕事風景を眺めているガーレッドに癒されながら作業すること鐘二回分、ここでようやく今日の分の作業が終了した。


「いつもよりも鐘一つ分は早く終わりましたね」

「コープス様、ありがとうございました~」

「ガーレッドちゃんもありがとうございます!」

「あはは、これくらいなら全然大丈夫ですよ」

「ピッピキャーン!」


 みんなが笑顔となり、帰り支度を始めたところで僕はガーレッドを抱き上げて事務室を後にする。

 今日は時間を使うことができたけど、明日以降はどうしようかな。

 僕はそんなことを考えながら晩ご飯を食べる為に食堂へと向かった。

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