ソニンからの課題
本部に戻るとホームズさんから声を掛けられた。
「ソニンさんが僕を?」
「探していましたよ。ソニン様の部屋に行ってくださいね」
うーん、何かやらかしただろうか。
ユウキとフルムとは事務室で別れて、僕はガーレッドと一緒にソニンさんの部屋に向かう。
「なんだろうねー」
「ピキャー?」
そんなやり取りをしながらソニンさんの部屋に到着するとドアをノックする。
『──どうぞ』
「失礼しまーす」
「ピーキャキャキャー!」
返事を受けてドアを開けると、そこにはソニンさんだけ。
カズチもいると思ったけど、どうやら呼ばれたのは僕だけのようだ。
……いや、マジで何かやったかな、僕。
「お、おはようございます、ソニンさん」
「おはようございます。どうしたのですか?」
「いえ、何かしたかなーって考えてました」
どうやら変な顔をしていたようだ。
僕の発言を聞いたソニンさんは苦笑しながら呼んだ理由を教えてくれた。
「コープス君が何かしたから呼んだわけではありませんよ。それとも、何かやったのですか?」
「やってません! 全くもって記憶にございません!」
「それならいいんですよ。さて、それではコープス君を呼んだ理由ですが、魔獣素材の錬成に関してです」
それなら昨日で一度やっているのだが、それならカズチがいないことが気になる。
「僕だけですか? カズチは?」
「カズチはまだまだ練習が必要ですからね。……カズチもとても優秀です。同じ年代の子供たちに比べたら実力も上位に入るでしょう」
「だからソニンさんも弟子にしてるんですよね」
「そうです。ですが……コープス君と比べると見劣りしてしまうのは仕方ないところではあります」
ソニンさんの言葉に僕は少しだけ心が痛んだ。
スキル効果の影響が大きい僕の錬成は、純粋に頑張っている錬成師から見ればインチキに近い。
カズチは受け入れてくれたし、僕もスキルを受け入れているのだが、はっきりと口にされるとやはり気になってしまう。
「なので──コープス君には個別指導をしたいと思います」
「……個別、ですか?」
個別と聞いて、それはカズチの目を盗んでということ? 一緒に見習いを卒業したのに?
「……はい。コープス君の能力を燻らせておくのはあまりにももったいない。ですから、これは棟梁とも相談して決めたことです」
「……ゾラさんも知っているんですね」
せっかく友達に、親友になれたカズチを差し置いて僕だけが先に行ってしまっていいのだろうか。嫌われないだろうか。
いや、カズチに限ってそんなことはない。でも……。
「それとね、このことはカズチにも相談していますよ」
「……えっ?」
「カズチは、コープス君に先に行っていてほしいと言っていました」
「カズチが、そんなことを?」
「はい。そして、目標が先にいたら追い掛けやすいから、とも言っていました」
「目標って、僕のことですか?」
「他に誰がいるのですか?」
……ヤバい、泣きそう。
カズチが僕の為に先に行けと言ってくれていること、そして僕のことを目標としてくれていることが何より嬉しい。
「カズチにとってコープス君は親友でもあり、ライバルでもあり、目標でもある。カズチの為にも、私はコープス君に個別指導をしたいと考えています」
カズチの為か。
そう言われてしまうと断る理由はどこにもない。
「分かりました。よろしくお願いします!」
「えぇ。というわけで──明日から魔獣素材を取るために東の森に入ります」
「……えっ?」
「ピキャ?」
なぜに魔獣素材の錬成で素材から取りに行かなければならないのだろう。そこは専門の人に依頼するべきじゃないのか?
「そこから森を抜けて、ラトワカンという山岳地帯に向かい、中級魔獣の素材を──」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
「……どうしましたか?」
「どうしましたか? って、いきなり過ぎませんか!」
まさか森を抜けてその先に行くとは思ってもいなかったよ!
それにさらりと言いましたけど中級魔獣って言いませんでしたか? 言いましたよね!
「まだ下級魔獣の素材しか錬成してないのに、いきなり中級魔獣はやり過ぎじゃないですか? というか、なんで冒険者に依頼しないんですか!」
「依頼は出しますよ──護衛依頼ですが」
「素材を取ってきてもらった方が効率的です!」
絶対に分かってやってるよね! 僕の反応を楽しんでるのかな!
「それはそうですが……残念ですねぇ」
「な、何がですか? わざわざ危険な真似をしなくても──」
「ラトワカンの近くにはラドワニという都市があるので、コープス君なら楽しんでもらえるかと思ったんですが」
「行きましょう、カマド以外の都市は行ったことありませんからね!」
そういうことなら先に言ってくださいよー。ソニンさん、これもわざとですねー。
「変わり身が早すぎませんか? それに王都に行っていたじゃないですか」
「観光も何もできませんでしたから、あれは数に入ってません!」
僕の答えにソニンさんは苦笑しながら頷いてくれた。
「まあ、コープス君が了承してくれるなら行きましょう。これから護衛依頼を出すので少々時間をいただきますが、日程が決まれば早めに連絡をしますね」
「お願いします! やったー! ガーレッド、外に行けるよー、楽しみだねー」
「ピピー? ……ピキャキャー!」
嬉しそうな僕を見て、ガーレッドも楽しくなったのかその場で跳び跳ねている。
こんなこともできるようになったのかと驚きながらも、僕はルンルンでソニンさんの部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます