成長と帰り道
結局、日が暮れる九の鐘まで練習をしていたシルくんは、半径三メートルまでにある小さなゴミまでは集めることができるようになっていた。
ホームズさんは仕事があると途中で戻ったのだが、これは結果を報告するのが楽しみだよ。
そして、僕たちはカマドに戻るとその足で教会に来ている。
お昼のバーベキューで作った串焼きが残っていたのでお裾分けをする為だ。
「贅沢を覚えさせるわけにもいかないので、一度神父様に確認しましょう」
シルくんの言葉を受けて僕たちは神父様と話をしているのだが、神父様は串焼きよりもシルくんの魔法操作に興味があるようだ。
「ほうほう、風属性でそこまでできるようになったんですね、素晴らしいですよ!」
「あ、ありがとうございます」
手放しに喜ぶ神父様を見て、シルくんは照れながら返事をしている。
「シルもそうですが、皆さんの教え方もよかったのでしょう、本当にありがとうございます」
「いやいや、僕たちはきっかけを与えただけで、後は全部シルくんの努力の結果ですよ」
「シルくんには才能もあります。これからもたくさん練習して、上達してね」
僕の言葉の後にユウキも続く。
シルくんはさらに照れてしまったのか頬を赤くさせながら下を向いてしまった。
「それで、この串焼きはどうしましょうか?」
ここでようやく本題に戻ることができた。
神父様もそうだったと言わんばかりに両手を叩いている。……いやいや、忘れないでくださいね?
「本当にこれだけの串焼きを頂いてもいいのですか?」
「はい。でも、贅沢品になるなら控えた方がいいかとも思ったんですが……」
「いえ、もし頂けるなら子供たちに食べさせてあげたいと思います。たまの贅沢なら問題ありません」
「そうですか、よかった」
僕とユウキは串焼きを台所に置くと、そのまま教会を後にした。
※※※※
本部へ向かいながら、僕はユウキにフローラさんの近況について聞いてみた。
「スキルのランクもいくつか上がったみたいで、とても喜んでいたよ」
「そうなんだ! やっぱり意識して魔法を使うのは大事なんだね」
「経験値の話? 目に見えるものではないから信じ抜くことって難しいと思うけど、実際に意識してやってみると周りよりもランクアップが速かったりするからね」
「ユウキの場合は無属性と
「うん。あっ、でも最近は新しく習得した剣術スキルのランクアップに意識を置いているんだ」
ここに来て初めて聞く名前のスキルが飛び出してきた。
剣術スキルとはどういった効果があるのだろうか。
「簡単に言うと、剣を扱う時に重さが軽くなるスキルなんだ」
「……えっ、それだけ?」
「そうだよ」
……なんかもっとすごい効果を期待していたよ。
体が勝手に名人並みの動きをするとか、どうな粗末な剣を使っても一級品の斬れ味を生み出すとか。
「あはは、もの凄く残念そうだね」
「あっ! ご、ごめん、顔に出てたみたい」
「いいんだよ。でも、このスキルって冒険者には重宝されるスキルなんだよ」
「そうなの?」
「うん。特にヴォルドさんやグリノワさんみたいに重量級の武器を使う人には特にね。もしかしたら二人も習得しているんじゃないかな」
その可能性はあると思う。
二人ともとても重そうな大剣とメイスを軽々と振り回していたし、ヴォルドさんに関しては
「黒羅刀も相当重かったからあり得るかも」
「そういえばあれって魔獣素材で打ったの?」
「重亀の甲羅で打った」
「……え、えっ? 重亀って、上級魔獣の?」
「そうみたいだね。役所から提供された素材の中に入ってたから使ってみたんだ……あれ、どうしたの?」
突然足を止めてしまったユウキに振り返りながら声を掛ける。
「……魔獣素材、それも上級魔獣の素材で鍛冶ができたなら、それはもう一流なんじゃないの?」
「どうなんだろうね。錬成では下級素材しかやったことないから分からないよ」
「いや、僕は鍛冶の話をしてるんだけど?」
「まあまあ、そんな細かいことは置いとこうよ。最終的には最高の魔獣素材で最高の武器を打って、ユウキにプレゼントするのが目標なんだからね」
「そ、そんな武器いらないよ!」
ふふふ、ユウキはそう言うけれどそのうち上級冒険者になって、通り名を得て、最高の武器を使いこなせる男になるに決まっている!
「……期待してるよ?」
「何に期待してるんだよ!」
「ユウキの将来だよー!」
「ピッピキャー!」
「わふ! わふわふ!」
「ガーレッドもフルムもジンを煽らないでよ!」
シルくんのことで色々と考えていたので頭が疲れてしまったが、帰り道はとても有意義なものになった。
だって、ユウキに最高の武器を打ちたいと言葉にすることができたからね。
言ったからにはやり遂げてみせる。有言実行だ!
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