これからについて

「ホームズさん、おはようございます」


 テントの前ではすでに片付けを始めているホームズさんの姿があった。


「おはようございます。早いのですね」

「目が覚めちゃいまして。ガルさんと話をしてました」

「仲良くなるのが本当に早いですね」


 微笑みながら言われたのできっといいことなんだろうな。

 僕は片付けを手伝い、そしてホームズさんに僕のテント片付けを手伝ってもらい、集合場所へと移動する。

 お昼前には王都に到着する予定なので、その後の行動について確認する予定だ。


「とりあえず、宿屋探しでしょうね」

「これだけの大人数で泊まれるところがあるんですかね?」

「大きな都市ですから、問題ありませんよ」


 集合場所にはすでにみんなが集まっており、交渉役を交えての話し合いが行われていた。

 その輪の近くに腰を下ろして内容を伺う。


「王都に入場する時は問題ないんだな?」

「はい。すでにカマドの役所から正式な書状を送り、返答もいただいています」


 クリスタさんがはっきりと断言する。

 それなら僕の入場も問題ないんじゃないかな? ……後で聞いておこう。


「交渉にはどれだけ時間が掛かりそうなんだ?」

「こればっかりはやってみないと分からん。王都側が知らぬ存ぜぬを押し通す可能性だってあるんだからな」


 ダリルさんの言う通り、僕たちはと思っているだけで、だという決定的証拠を持っているわけではない。

 そんな状況でここまでしてくれるのは、それでも王都が一番怪しく、王都が絡んでいると全員が確信を持っているからだ。


「まずはゾラ様逹の足取りについて確認を取ります。王都からの呼び出しで向かったのは役所でも確認済みですから」

「そうして、その足取りを追うなかでおかしな点があれば、そこを突っついて交渉を続けていく」

「その中心になるのが、一言も喋ってないそこの嬢ちゃんってことなんだよな?」


 ヴォルドさんが困った顔で表情を強ばらせているシリカさんを見た。


「……ご、ごめんなさい」

「いや、謝ることじゃねえが、頼むぞ?」

「は、はい!」


 最後の返事には力があったのでやる気はあるように見える。ということは、単純に緊張しているのかな?


「緊張してはダメよ。私とダリルがきちんとサポートするからね?」

「そういうことだ。俺達は三人で交渉役なんだからな」

「……は、はい!」


 クリスタさんとダリルさんがいれば、シリカさんも大丈夫そうだ。

 ヴォルドさんも納得したのか、その場から立ち上がると手を叩いて注目させる。


「王都は間近だが、まだまだ油断しちゃいけねえぞ! これから出発して、昼前には到着するからな!」


 怪我や毒の痛みはまだあるだろう。それを悟らせないように普段と変わらない態度を取り続けるのは辛いはずだ。


「ヴォルドさん、凄いですね」


 僕の凄さは英雄の器しかなく、それが無くなれば何もできない子供になり下がるだろう。

 ヴォルドさんの凄さは、スキルなんて関係ないものだからとても羨ましい。


「ヴォルドは自分が弱いと思っています」

「えっ! あれで?」

「そう、あれでです。他の冒険者逹がかわいそうになりますよね」


 苦笑するホームズさんは、そのまま話を続けていく。


「私や過去の通り名持ちと比べてしまうのでしょう。過去の者逹から見れば、私も弱い部類に入るでしょうが、今は今です。ヴォルドが気にすることではないのですが、根が真面目なんでしょうね」


 まさか、ホームズさんまでが弱いなんてことになったら今の冒険者たちが過去の通り名持ちに束で掛かっても敵わないだろう。


「でも、エジルはホームズさんのことを強いって言ってましたよ」

「過去の英雄にそのように言ってもらえるのは嬉しいですね」


 苦笑を笑みに変えたホームズさんを見ていると、本当に嬉しいのだと分かる。

 今は冒険者を引退しているとはいえ、やはり名残惜しい部分はあるのかもしれない。


「怪我は治ってるんですよね?」

「まあ、そうですね。ただ長い間冒険者家業から離れていましたから、まだまだ体が動いてくれないのですよ。昨日の襲撃の時も、たった二人の暗殺者に抑え込まれてしまいましたからね」


 そこでたった二人と言えるあたり、本来の実力が相当高いのだと伺える。

 ……んっ? ということは、本来の動きではないホームズさんを見てエジルは強いと断言したってことか。もし現役の動きを取り戻したらどうなるのだろうか。悪魔でも敵なしではないだろうか。


「……ホームズさん、恐るべし」

「何がですか?」


 本人が自分の発言の凄さに気づいていないから別にいいかと、僕は曖昧に笑ってから馬車の方へ移動した。

 馬車の中では先程の話にあった入場についてクリスタさんに聞いてみる。


「僕の入場も問題はないんですか?」

「あぁ、そうでしたね。入場には問題ありませんよ。当初、王都からの返答があるかどうかという状況でしたから、最悪の場合を踏まえて行動していたのです。出発の前夜、それも遅い時間でしたが早馬が到着しましたから」


 そういうことだったのか。それならそうとホームズさんも言ってくれたらいいのに。


「変に期待を持たせるわけにはいきませんからね。まあ、念の為です」

「備えあれば憂いなし、ですか」

「そうですが……難しい言葉を知ってますね」


 そうかな? ……あぁ、子供からしたらってことか。そうだよね、大人組からの視線が痛いんだもの。


「ピキュー?」


 ガーレッドだけが、僕の発言を気にすることなく接してくれるのだった。

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