四日目の朝

 翌朝は早い時間に目を覚ました。

 まだ寝ているガーレッドを起こさないように外へ出ると、そこではすでに活動している人がいた。


「おはようございます、ガルさん」

「おぉ、ジン坊じゃないか、おはようさん」

「朝早いんですね」

「朝一の斥候は俺の役目だからな」

「今から向かうんですか?」

「いや、もう終わって戻ってきたところだ。今のところは問題ないから安心しろよ」


 笑顔で頭を撫でてくれたガルさん。昨日話をした時といい、子供にとても優しい性格のようだ。


「しかし、ジン坊も大変だな」

「何がですか?」

「こんな大変な依頼に同行して、なおかつ謎のいざこざに巻き込まれちまってよ」

「な、謎のいざこざってなんですか?」

「ガーレッドを取り合うあれよ」

「あー、あれですか」


 あれは僕も当事者みたいなものだから仕方ない気がする。


「ガルさんは可愛いものとかそこまで好きじゃないんですか?」

「好きか嫌いかで言えば好きだが、今は仕事中だからな。仕事と個人の感情を混ぜちゃいかんだろう。その点、グリノワさんはさすがだよ」


 二日目の夜の騒動を思い出したのだろう。そして、昨日の夜もガーレッドには関わらずに仕事の話をしてくれた。

 ガルさんとグリノワさんは、ヴォルドさんを横から支えるベテランみたいな立ち位置なのかもしれない。


「ところで、昨日は鍛冶をしなかったみたいだがどうしたんだ?」


 昨日は晩ご飯を食べ終わると、しばらくはガルさんとグリノワさんの三人で話をしていたのだが、その後はそのままテントに戻ってしまった。


「ホームズさんもヴォルドさんも戻ってこなかったのでそのまま寝ちゃいました。この状況で鍛冶をしていいのかも分からなかったですし、護衛の関係もあったので」

「まあ、そうなるか。残念だなぁ、次の剣は俺が貰えるかもって思ってたんだが」

「あー、その、すいません」

「冗談だよ、冗談! 俺の主武装は手甲と足甲だからな。剣も使うが、基本は腰に下げているだけだし」

「グリノワさんも同じですかね?」

「だろうな。ヴォルドさんが使ってた剣を見ると欲しくなるが、よく考えればやっぱり主武装の方が扱いやすい」


 今の僕では手甲や足甲、メイスの作成はできない。

 アシュリーやヴォルドさんにだけ超一級品を渡していることに、少しだけ罪悪感を感じてしまう。


「ジン坊が気にすることじゃないからな。俺の武器はほとんどオーダーメイドに近いから、馴染みの鍛冶屋にお願いしてるんだよ」

「……はい」


 そうは言うものの、大金貨が動くかもしれない超一級品である。できればガルさんとグリノワさんにも何かしら打ってあげたい。

 今回の依頼中に無理だとしても、個人的に打ってあげられたらいいなと思う。


「もし僕が武器を打ったら、貰ってくれますか?」

「超一級品じゃなかったら適正価格で買うけどな! 超一級品は金が足りん!」

「皆さんそう言いますねー。お礼なんですけどー」

「依頼中なら理由があるが、そうでなければ理由がないからな!」


 頑固な冒険者たちである。

 だが、だからこそここにいる人たちは上級冒険者であり、信頼関係が築けているのだろう。


「だったら、帰り道にでも打っちゃおうかな?」

「それだともう助け出したあとだろう? 打つ意味がないんじゃないか?」


 言われてみればその通りである。


「……や、やっぱり、昨日も打っとくんだった!」

「だから、気にすることじゃないって言っただろ?」

「──ピーキャー?」


 僕とガルさんの会話が聞こえたのか、寝起きのガーレッドがテントの中から顔を出してこちらを見ている。


「あれ? ごめん、起こしちゃったかな?」

「ピッピキャーキャー」

「なんて言ってるんだ?」

「いつもの時間なんだって」


 起こしたわけじゃなくてよかった。

 でも、ガーレッドが顔を見せてからのガルさんの表情がなんだか柔らかくなった気がする。

 仕事とはいえ、やはり癒しは必要だと思う。


「抱っこしてみますか?」

「双子に恨まれそうだな」

「ラウルさんとロワルさんなら、昨日の朝食の時に堪能してたから大丈夫ですよ」

「なるほど、そりゃ違いない」


 そう言ったガルさんは慣れた手つきでガーレッドを抱き上げた。


「手慣れてますね」

「まあ、動物って言ったらガーレッドに失礼かもしれないが、懐かれる方でな。よく抱っことかはしてたんだよ」


 獣人だから、ということではないのだろう。ガルさんの人柄が動物にも伝わっていたのかもしれないね。


「ピキャキャー」

「あはは、嬉しいみたいですね」

「そうなのか? 何を言ってるのかは分からんけど、そうだったら嬉しいもんだな」


 何回か高い高いをすると、そのまま僕にガーレッドを手渡してきた。


「もういいんですか?」

「十分だ。それに、そろそろみんなが起きてくる時間だからな」


 ガルさんの言葉通り、数分後にはぞろぞろとテントの中から人が出てきた。


「よく分かりますね」

「斥候をやっていたら、全体の動きを把握するのも仕事の内なのさ」

「そう考えると、二人はまだまだってこと?」

「言うじゃねえか! でもまあ、その通りなんだけどな!」


 最後には大声で笑ったガルさんと別れて、僕はホームズさんのところへと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る