王都

王都到着

 今日の道中は襲撃もなく、順調に行程を消化することができた。

 そして──お昼前には王都ベルハウンドに到着した。


「……お、大きい門ですね」

「カマドも大きいですが、王都はさらに大きな都市ですからね」


 カマドの倍近い大きさの門。その奥には遠くからでもそれと分かるお城が雄大に構えている。

 まだ門の外にいるにも関わらず、中からは住民逹の賑やかな声が聞こえてきた。


「止まれぇーい! お主ら、ベルハウンドに何ようじゃー!」


 な、何やら面白い音頭を取る人が現れたな!


「私達は王への面会、及び交渉の約束を交わしている一行です。こちらがその書状となります」

「なーにー? どれ、見せてみろい!」


 マ、マジで何なんだこの人!


「…………ふむふむ、よし! 通ってよーし!」

「ありがとうございます」

「ただーし! 問題は起こすんじゃないぞ、いいな?」

「心得ております」


 全ての対応をクリスタさんが終わらせてくれ、僕たちはすんなりと王都への入場が許された。

 しかし、王都の兵士はみんなあんな感じなのだろうか。もしそうだとしたら、ちょっと笑いをこらえるのが大変そうなんだけど。

 そんな場違いなことを考えながら外を覗いて見ると──そこにはカマドとは違った街並みが広がっており、明るい色が視界を彩っている。

 さらに通りを子供たちが走っており、そのかわいい声が周囲の賑わいを大きくしていた。


「ふえー、ここがベルハウンドですかー」

「うふふ、コープス君でも驚いたりするんですね」

「そりゃあ驚きますよ。でも、僕はカマドの方が好きですね」

「そうなの?」

「だってですよ? 絶対にカマドの方がいいに決まってるじゃないですか!」

「……そ、そうね」


 クリスタさんが呆れたように呟いた。

 何故そのような反応になるのかは分からないけど、まずは王都に到着した。これからが本番なのだが、とりあえずは第一目標クリアだろう。

 王都内で襲撃者が仕掛けてくる可能性は低いはず。むしろ王都にそのような輩が潜んでいたら門兵の責任問題になるかもしれない。

 ……まあ、あの変な門兵さんならやらかしそうではあるけどね。

 しかし、馬車の周囲を七名の冒険者が囲んで進んでいるにもかかわらず、王都ではそこまで騒がしくならないことには驚いた。

 もしかしたらこのような光景は日常茶飯事なのかもしれない。


 ヴォルドさんの先導で到着した宿屋は門から五分程の距離にある。お城と門のちょうど真ん中くらいに位置しており、周囲には食事処もあるようで利便性は高そうだ。

 どうやら顔見知りのようで、ヴォルドさんも王都に寄った時には毎回ここの宿屋に泊っているらしい。


「いらっしゃい。今日は大人数だな!」

「ちょっと野暮用でな。全員で一三名なんだが、泊まれるか?」

「ちょっと待ってくれよ…………何人かは同部屋になるが構わないか?」

「男性と女性を分けられれば問題ないさ」


 その後、女性が五人ということで大部屋を使うこととなり、男性はそれぞれで振り分けられていった。

 僕は言わずもがなホームズさんと同部屋だ。

 その他はヴォルドさんとグリノワさんとダリルさんが同部屋で、双子のラウルさんとロワルさんにガルさんという割振りになった。

 ロワルさんはホームズさんと同部屋になりたかったようで落ち込んでいたが、ガルさんが良い機会なので斥候の何たるかを双子に叩き込むのだとやる気になっているので、教育も含めた割振りなのだろう思うことにした。

 僕たちが泊る部屋は全て二階にまとめられており、荷物を部屋に置くと取って返すように一階に集まる。


「私達交渉組はそのまま城へ向かいたいと思います」

「護衛にはアシュリーとグリノワがついて行ってくれ」

「分かったわ」

「任せとけ」


 男性の護衛は交代できるのだが、女性の護衛になれるのはアシュリーさんだけなので一番大変かもしれない。

 二コラさんは回復役だし、メルさんが仮にお城の中で魔法を使おうものなら、僕たちが襲撃者として捕らえられるかもしれないので仕方ないのだが。


「残りの者は自由時間だが、ゾラ様達の情報収集をしながらで頼むぞ」


 王都内を見て回るのは自由だが、その中でも情報収集は欠かすなとヴォルドさんは言った。

 僕は情報収集するならどこがいいかと考えて、ホームズさんに提案してみる。


「情報収集といえば酒場ですよね。お昼ご飯を食べながら行ってみませんか?」

「……コープスさん、子供が酒場に行こうなんて普通は言いませんよ?」


 あっ、そうだったね。でも情報収集するには酒場と相場は決まっているのだが……もしかして、違うの?


「まあ、美味しい酒場には心当たりがあるので行ってみてもいいかもしれませんね」

「おい、ザリウス」

「大丈夫です。私も飲みませんし、コープスさんには当然ながら飲ませませんから」

「当り前だろうが!」


 怒鳴るヴォルドさんをなだめながら、僕とホームズさんは賑やかな王都の通りへと繰り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る