気になる歴史本
その後はいつから改築を始めるのか、どのような物が必要なのかなどを話し合ってからゾラさんの私室を後にした。
部屋に戻ってからもしばらくは興奮が冷めることなく何度もガッツポーズをとっていた。
その光景が面白かったのか、ガーレッドは僕の動きをまねて片手をパタパタさせて喜んでいる。
そんなガーレッドを見た僕は興奮から安らかな気持ちに切り替わり優しく抱きしめた。
「ガーレッド、やったね! 僕だけの鍛冶部屋がもうすぐ出来上がるんだよ!」
「ピッピキャ!」
「うん、やったよ、やったね!」
ガーレッドも一緒になってやったね、と言ってくれた。
僕の気持ちが伝わるんだろうなぁ、それだけでも本当に嬉しいよ。
ガーレッドも色々なところを自分の目で見ることが出来て楽しかったみたいだし、今日はとても有意義な一日だった。
ガーレッドと一緒に体を流してサッパリした後はベッドの上で遊んであげる。
しばらくはピッピと楽しそうにしていたが、途中からはやはり瞬きの回数が多くなり、頭がカクカクし始めると、横に寝かして頭を優しく撫でてやればすぐに寝入ってしまった。
もっと遊ぶ時間を増やしてあげたいけれど、僕自身もまだまだ勉強しないといけない。今日みたいに出かける時に必ず連れて行くこと、朝起きた時と夜寝る前にこうやって遊んであげる、この時間はずっと続けていかなければと思う。
そのまま寝ようと思ったが、今日も寝る前に少しだけ歴史本を読むことにした。
鍛冶部屋の衝撃が強過ぎて眠くないのだ。
椅子に腰掛けて歴史本を手に取り、栞を挟んでいたページを開いた。
『先導者は国を作る為に新たな王を選出した。
選ばれたのはベルハウンドに暮らす一人の少年だった。
村の人々は誰もが反対した。子供にそんなことはさせられないと。
だが先導者は言った。彼は未来の王なのだと。彼が大人になるまでは我々が内政を整えるのだと。
反対する者もいたが、賛成する者もいた。
反対派は戦争には参加せずに村に残っていた老人や女子供たちだった。
賛成派は先導者の実力を間近で見てきた若者たちだった。
結果、若者が多い賛成派が勢いに任せて先導者の意見を採用、先導者に選ばれた少年が王となり、ベルドランドが誕生したのだ。
ベルドランド国初代国王の名前はラウル・ホークレイと言った』
ラウル・ホークレイか。
当時この子はどういう心境だったのだろう。突然王に祭り上げられて、先導者の思うままに動かされたんじゃないかと想像してしまう。
本当は逃げたかったんじゃないか、普通に生きていたかったんじゃないか。
僕も転生者だし、下手をすれば周りに大きな影響を与えてしまうだろう。自分の行動をよくよく考えなければいけないと、この本を読んでいると感じてしまう。
『ベルドランドは先の戦争で共に戦った村々を取り込み小国でありながら広い国土を持っていた。
事前に先導者が村を豊かにする為に動いていたこともあり人々は豊かな暮らしを保っていた。
周辺諸国は興されたばかりの小国に構っている暇も余裕もなかったのか、ベルドランドは着々と物資を増やし、武具を揃え、次の戦争へと向かう為の備えを増やしていった』
今のベルハウンドがある場所がそのまま王都になったのだろうか。
それとも昔のベルハウンドはなくなり、今の土地に都市が築かれて新しいベルハウンドとなったのか。
当時のベルハウンドに行ければ転生者の情報が何かしら出てくるんじゃないかとは思うけれど、僕自身が行く予定もないのでそこは気にしないでおこう。
『戦争の準備が出来たと判断した先導者は、まず周辺にある小国--ではなく中規模の国に侵攻を開始した。
通常ならば小国を攻めて徐々に国土を増やすだろうが、先導者の考えは違った。
最初である程度の国土を持つ中規模の国を手にすることが出来れば、周囲の小国に戦力を誇示することが出来る。そうなれば戦わずして占領出来る可能性が跳ね上がると断言した。
そもそも、大国であった愚王の軍隊を退ける程の実力と武具が揃っているのだから他の国を攻め滅ぼすことは容易である。ベルドランドは開戦から一週間も経たずして目的としていた国を滅ぼすと、周辺の小国へベルドランドへ降るよう使者を送ると、ほとんどの国が従うしかないと判断したのだった』
先導者は大国になる為の最短ルートを選んでいるように思える。
小国を一つ一つ滅ぼして内政を都度整えるよりも、小国よりも力を持つ中規模の国を滅ぼしてしまえば力の誇示とともに戦わずして従えさせることも可能と判断したのだ。
そうなれば内政を整えるのは滅ぼした国のみ。降った小国には元々の政官が残っているのでこちらのやり方を真似てもらえれば統治も簡単じゃないだろうか。
ならば大国を攻め滅ぼせば早いんじゃないかとも思うけど、それでは目立ち過ぎるのだろう。
大国が攻めてきた場合に対処しなくてはならず、さらに隙をついて別の大国が攻めてきた場合にはそれこそベルドランドが滅んでしまう。
小国に対しては目立ち、大国に対してはそれほど目立たずにことを成す。
人死も少なく済むのでそれに越したことはないのだが、それでも先導者のやり方を好きにはなれない。
結局戦っているのは村人たちだ。先導者も先陣を切って戦ってはいるが、読んでいると最初だけであり、後は全て村人たちが戦っている。
高みの見物をしている先導者に、僕は悪感情しか浮かばない。
戦争というもの自体が好きではないのでそういうこともあるかもしれないが、それでも先導しておいて自分の手を極力汚さない行動は嫌だな。
「……今日はここまでにしようかな。鍛冶部屋の感動がなくなっちゃいそうだし」
モヤモヤした気持ちを切り替える為に一杯だけ水を飲み、ベッドで横になる。
ガーレッドの可愛い寝顔に癒されながら、僕はゆっくりと眠りに落ちた。
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