鍛冶部屋の相談
本部に到着してすぐにゾラさんの私室に連れていかれた僕は、しばらくして呼び出されたソニンさんが入ってきたのを見て小躍りしそうになった。
「鍛冶部屋の話ですね!」
「……何の話でしょうか?」
事情を知らないソニンさんは首を傾げている。
苦笑を浮かべるゾラさんが事情を説明すると、ソニンさんも納得顔を浮かべている。
「確かに他のメンバーの前で作業をさせるのはよろしくありませんね」
「錬成はどうじゃ?」
「今のところ錬成は新人としては破格ですが、鍛冶と比べると見劣りはしてしまいますね。錬成時の魔力消費も気になります」
「ふーむ、ならばまず作るとしても鍛冶部屋かのう」
「鍛冶部屋は大事だと思います! えぇ、必要です!」
僕が鍛冶スキルを習得するためにも、本当に必要なんですよ!
僕の必死の訴えを聞いているのか聞いていないのか、二人はこちらを気にすることなく話を進めていく。
「ルルから意見があったんじゃが、誰かを付けることは時間と人数的に難しいので、時間を決めてやらせればどうかと言うことじゃ」
「時間、ですか? ……なるほど、制限時間を設けるとかですか?」
「そうじゃ。もしくは、何時から何時までしか使用出来ないようにする、とかじゃな」
「制限時間ではコープスくんが出てこない可能性もありませんか?」
「そうじゃのう」
「えっ、それ酷くない?」
この呟きには反応を示していた。半眼で睨まれたけど。
「なら、何時から何時までという時間指定にした方が良いかもな」
「そうですね。それであれば終わりの時間に誰かが顔を出して声を掛けてあげることも出来るでしょう」
「もし、鍛冶の途中だったらどうするんですか?」
「若干の延長は仕方あるまい。じゃが、終わる間際に鍛冶を開始した場合は例外じゃ。儂らの目は誤魔化せんからの?」
「……はーい」
そんなことしないのに、なんか酷い。
でも鍛冶部屋が作られるならばそんなこと言っている場合ではない。
錬成の練習で出来た素材で鍛冶の自主練習、この流れを作れれば早い段階で鍛冶スキルを習得できるだろう。
いつの日か錬成部屋まで作ってもらえれば錬成スキルだって可能なはずだ。
「むふふ、今から楽しみですよー」
「まだ作ると決まったわけではないぞ?」
「えっ! いや、もうそういう流れだったじゃないですか!」
「今のは制度をどうするかの話し合いです。作るかどうかはこれからですよ」
「いや、でも、鍛冶場で練習できないなら、部屋でやるしかないですよねー」
「儂かソニン、どちらかの手が空いている時でいいではないか」
「でもでも、出張に行ったりしたら出来ないですよねー」
「そこはもう、我慢ですね」
「……えー?」
頬を膨らませて抗議の意を示したが、全く気にするそぶりがない。
ぐぬぬ、新人には破格だと思うけど、お願いします! 練習場所がほしいんです!
「……くくくっ!」
「……ふふふっ!」
「……へっ?」
すると突然二人が笑い出した。
な、何? 何か変なことでも言ったかな?
「冗談じゃよ、冗談!」
「じょ、冗談?」
「えぇ、その通りです。実は、コープスくんが鍛冶をしたその日から鍛冶部屋についての話は出ていたんです」
「そう、なんですか?」
「小僧の鍛冶はスキルの影響を受けているとはいえ、超一級品だからの。儂らが作った武具と同じでリューネを通して卸すことになるだろう。ならば鍛冶部屋を作るのもそうじゃが、作る作品の管理と確認も必要になる。作品の管理と確認は都度儂らが行えば問題ないのじゃが、小僧の行動をどのように制限しようかと考えていたところなんじゃよ」
「そこにソラーノさんから良い提案があったので、それでいこうとなったんですよ。今しがたですが」
「えっ? ということは?」
この流れなら間違いないよね? まさか、また冗談とか言わないよね?
期待が顔に出ていたのか、二人は顔を見合わせて苦笑している。
最後にはこちらに向き直って口を開いた。
「安心せい、小僧の部屋に鍛冶部屋を作ってやる」
「…………や、やったーー!」
「ただしじゃ!」
両手を上げて喜んだ僕にゾラさんの声が被さった。
「今話をした時間制限、これを守れなければすぐに鍛冶部屋は閉鎖にする、よいな?」
「はーい!」
「それじゃあ、改築が終わるまでは鍛冶の自主練習はゾラ様か私に声を掛けてくださいね。時間があれば我々の鍛冶部屋をお貸ししましょう」
「ありがとうございます!」
今度こそ両手を上げて喜び、飛び跳ねた。
「こうやってみると年相応に見えるもんじゃな」
「本当にそうですね」
何か言っているけど気にならない。
僕の、僕だけの鍛冶部屋が出来るんだから!
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