自主練習について
一度冒険者ギルドに寄ってユウキが僕の依頼を受けたのを確認してから、ユウキとは別れた。
本部に戻りながらの道すがら、鍛冶の練習についてゾラさんに話をして見た。
「鍛冶の練習かぁ。鍛冶場でもいいが、あそこは他の目もあるからのう」
「ですよねー」
「新人が超一級品を作るところなんか見せたら、みんな辞めてしまうかもしれん」
「棟梁、それはさすがに……」
「いや、職人は見栄っ張りや負けず嫌いが多い。プライドの高い奴もおるからあり得るぞ」
それは『神の槌』存続にも関わる問題なので却下である。
うーん、そうなると何処で練習をしたらいいだろう。毎回ゾラさんの鍛冶部屋を借りるわけにもいかないしなぁ。
「……それならいっそ、小僧の部屋に鍛冶部屋を作ってもいいかもしれんな」
「…………へっ?」
い、今、なんて?
「あー、棟梁、それは止めた方がいいと思います」
「ちょっと、カズチ! なんでそんな意地悪を言うんだよ!」
「だって、そしたらジン、部屋から出てこなくなるだろう」
「そんなことないよ! ……たぶん」
「自信はないんじゃな」
「でもでも、練習はしたいです! ちゃんとご飯の時は出てきますから!」
「ご飯の時だけか?」
「うっ! ……それ以外でも、ちゃんと、出ます」
「うーん、カズチの意見もたしかに心配なところではあるの」
「そ、そんな〜!」
ぼ、僕の鍛冶部屋が、なくなる!
「だったら、鍛冶の練習をする時には必ず誰かを付けたり、時間制限をするとかはどうかな?」
「どう言うことじゃ?」
「ジンくんのことを知っている人と一緒じゃないと練習出来ないようにするとか、一日の練習時間を決めたり、何時から何時までしか使ったらダメ、とかかな?」
「ふーむ、それならば管理も楽じゃな」
「そうなると知っている人が明らかに少ないです。棟梁に副棟梁ホームズさん、俺とルルを入れても五人です」
「それぞれにもやることがあるからの、やはり時間で管理する方がよいかの」
「そ、それでもいいから、鍛冶部屋を作ってください!」
思案顔のゾラさんに、一生懸命お願いをする。鍛冶の練習が出来るのであれば時間制限があっても全然問題ないのだ。
「とりあえず、帰ってからソニンと相談じゃな。小僧の管理は儂らにとっても大事な問題じゃ」
「か、管理って、僕そんなに扱いにくいですか?」
「……気づいておらんのか?」
「まっさかー! そんな冗談を言うなんて、ゾラさんもお茶目ですね!」
「……」
「……えっと、ごめんなさい」
「……もうよい、とりあえず鍛冶部屋のことは要相談じゃからな」
「……はーい」
「そんなに落ち込むことじゃねえだろ。新人で鍛冶部屋があるなんて破格だからな。俺だって錬成部屋を持ってないんだぞ」
「そうなの?」
僕に対してそう言ってくれているのだから、てっきりカズチの部屋には付いていると思っていたよ。
「そうだぞ。検討してもらえるだけでもありがたいんだからな」
「そう、だね。ゾラさん、ありがとうございます」
「素直でよろしい」
鍛冶部屋が出来たら御の字、それくらいの期待でいいのかもしれないな。
……出来てくれたらいいなあ。
「そういえば、冒険者ギルドに寄っていたがあれはなんだったんじゃ?」
「ユウキに素材の依頼をお願いしたんです。キルト鉱石と銅です」
「キルト鉱石と銅か。キルト鉱石はわかるが、何故に銅なのじゃ? クランでも大量に仕入れておるぞ?」
「目的はキルト鉱石なんです。銅はそのついでで、錬成の練習用ですね」
「クランのを使えばよかろう」
「ダリアさんにも言われました。でも、そこに甘えてばかりじゃダメかなって思って」
「そんなことを気にするんじゃない。子供が使うものを準備するのも親の務めじゃからな」
ゾラさんの言うことも分かるけど、やはり自分で出来ることはやるべきだし、甘えてばかりではダメなのだ。
「親しき仲にも礼儀あり、ですよ」
「……まーた難しい言葉を知っているのう」
「将来のことも考えて、自分で出来ることはやりたいんです」
「まあ、好きにせい。一応、クランの銅も言えば好きに使ってよいからの」
「ありがとうございます。でも、それにはやっぱり鍛冶部屋が必要になるので、どうかよろしくお願いします!」
「現金じゃのう。安心せい、ちゃんと考えておくわい」
苦笑しながらも約束してくれたゾラさんに僕は両手を振り上げて喜んだ。
「よかったね、ジンくん」
「鍛冶ばかりじゃなくて、錬成も勉強しろよ」
「もちろんだよ! あっ、だったらゾラさん、錬成部屋もどうでしょうか?」
「……調子に乗りすぎじゃ」
「あっ、はい、すいません」
最後は溜息に変わってしまったが、とりあえず鍛冶部屋が出来ることを願うことにしよう。
それまでは勉強もそうだけど、作りたい物リストを作るのもいいかもしれないと思いながら本部への道を進んでいった。
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