バタバタな付与と錬成
まあ、僕に対する扱いが酷いのは今日に始まったことではないので気にしないことにしよう。
……うん、気にしてないよ。
「それじゃあ、次は魔導スキルの実践に移りたいんだけど……カズチ、協力してくれる?」
「えっ、俺か?」
「うん。カズチが錬成する素材に、ルルさんが付与する形を取ってみようと思うんだ」
「えっ、私も?」
意外だったのか、ルルまで驚きの顔をしている。
「だって、魔導スキルを使いこなせるのはルルさんだけでしょ?」
「それはそうだけど……で、できるかな?」
「付与したことはないんですか?」
「ない、初めて」
「そっか。それじゃあ無理はできないね」
うーん、と考え始めたユウキだったが、ルルが意を決したような表情で口を開く。
「わ、私やります!」
「無理してない?」
「みんなが勉強しようとしてるのに、先生の私ができないなんて言っていられないもの!」
何やら変な方向に解釈しているような気がする。
「ルル、先生だからって無理しなくてもいいんだよ? こうして教えてもらえるだけで助かってるんだから」
「違うの、ジンくん。私も一歩前に進みたいの」
そこまで強く言われてしまうと僕からは何も言えないよ。
チラリとユウキを見ると優しく微笑んでいる。
「分かった。僕もやり方を教えるから、その通りにお願いするね」
「ありがとう!」
「ユウキ、ちょっと待て」
そこで声をあげたのはカズチだ。
「
「僕が持ってるから安心してよ」
「……なんで持ってるんだよ」
「あはは、いや、そのー」
この感じはあれか、うん、さっき注意したけどすでに錬成布まで買ってたか。
「ソラリアさんのところで買ったの?」
「……うん」
「それってちゃんと使えるの?」
「それは大丈夫だよ! 僕も確認したから!」
「……使えたら買っていいわけじゃないからね?」
「……き、気をつけます」
今回は勉強のためになるから嬉しいけど、今後のユウキの生活を考えると衝動買いは気をつけてほしい。
「と、とりあえず、錬成布を持ってくるから、少し休んでてね!」
バタバタと二階に上がっていくユウキを見て、僕たちは声を出して笑ってしまった。
今頃ユウキの顔は真っ赤になっているかもしれないが、自業自得ということで許してほしい。
「ユウキくんって意外と抜けてるねー」
「そのあたりはジンと似てるかもな」
「似た者同士ということですか」
「えっ、みんな酷くない?」
これまたそれぞれの意見を口にしながら休憩していると、気を取り直したユウキが一枚の布を持って降りてきた。
ソニンさんとの勉強の時に錬成布を使っているけど、それとは布の材質が違うように見える。
錬成布にも色々あるってことなのかな?
カズチも気になったのか、錬成布を見てユウキに声をかけていた。
「その錬成布、ちょっと見せてくれないか?」
「いいけど、どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
受け取った錬成布を眺めながら、カズチは顔を強張らせていく。
何があったのだろうか、僕には全然分からないよ。
「……ユ、ユウキ。これっていくらしたんだ?」
「これもセール品だったから、大銅貨一枚だよ」
「これが大銅貨一枚! ……マジか」
「えっ、何々、どうしたの?」
ちょっと、ものすごく興味があるんですけど!
「これは錬成布の中でも最高級品だ。錬成陣が魔法で布に定着されているから擦れて消えることもない。持ち運びも楽にできるから錬成師の中でも重宝されるものなんだよ」
「……ちなみに、相場はおいくらなんですか?」
「……中銀貨五枚、とかかな」
「…………どどどど、どうしよう! これ、返した方がいいかな!」
慌てふためくユウキを横目に、僕は少し不安を覚えた。
ソラリアさんの道具屋のセール品って、だいたいが一癖も二癖もある商品ばかりだったのだから、これだけがまともな商品と考えるのはおかしくないだろうか。
「ねえ、説明書きとかなかったの?」
「あったけど、ただの錬成布だよ?」
カズチから受け取った錬成布を眺めながら、ユウキが端の方を指差す。
説明書きがくっついていたので、それを読んでみると――。
『錬成布:擦れることがないよう布自体に錬成陣を定着させている高級品、補足:錬成陣が二度書きされているので一日一回しか使えません、大銅貨一枚』
……めっちゃ書いてあるじゃん!
「ユウキ、補足のところ読まなかったの?」
「えっ、読んで……ないかも。何か書いてあるの?」
ソラリアさんの道具屋のセール品は粗悪品、その前提で考えなきゃいけないのに、なんで読んでないんだよ!
「一応使えるみたいだけど、錬成陣が二度書きされているから一日一回しか使えないんだって」
「……そ、それだけ?」
「そうみたいだよ」
ものすごくホッとした表情のユウキだけど、ちゃんと確認して買えばそんな風にならないんだからね。
「ソラリアさんのセール品は、ちゃんと説明書きを読んでから買おうね?」
「……は、はい」
「まぁまぁ、一応錬成はできるんだろ? 頻繁にやるわけじゃないんだから気にするなよ。それに擦れないなら掘り出し物ってことには変わりないさ」
落ち込むユウキの肩を叩きながらカズチが慰めている。
「よし! それじゃあ錬成をやってみるか!」
「わ、私も頑張るよ! ユウキくん、色々教えてよね!」
「う、うん。……よし、切り替えるぞ、やりましょう!」
ちょっとしたバタバタはあったものの、ようやく魔導スキルの実技が始まった。
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