ライオネル家、勢揃い

 この日の夜、晩ご飯にユージリオさんがやって来ることは予想していた。

 予想していたのだが……まさか、家族全員が勢揃いするとは思いもしなかった。


「まさか、王都を救った英雄と食事をできるとは思わなかったよ」


 ライオネル家の長男、ユージェイン・ライオネル。


「ってことは、君があの剣を打った鍛冶師ってことか!」


 ライオネル家の次男、ユセフ・ライオネル。


「旦那様がお世話になったようで、ありがとうございます」


 ライオネル家の長女、リーネ・ライオネル。


「私は義理の姉がお世話になったみたいね!」


 ライオネル家の次女、シルク・ライオネル。

 初対面の印象だと、長男と長女が落ち着いた雰囲気を持っており、次男と次女が活発な印象だ。

 まあ、次男のユセフさんは『神の槌』に豪華な見た目の剣を依頼していたので、予想通りの人物って感じだな。


「あの、旦那様と義理の姉、というのは?」


 英雄と言われることにむず痒さを感じながらも、気になる女性陣の発言に答えを求めた。


「私は近衛騎士、近衛隊長のジェイラル家に嫁いでいるの」

「近衛隊長……オシドさん、ですか?」

「そうです。あの場には旦那様もいましたから、本当に助かりました」


 そう口にして、リーネさんがお礼を口にする。


「私はストラウスト家に嫁いだの! そこの義理の姉が、ポーラ・ストラウストさんなのよ!」

「ポーラ・ストラウストって……あっ! 国家騎士団長の!」

「そうそう! だから、私もお礼を言わせてちょうだい、ありがとう!」

「ですけど、ポーラさんは王族の警護についていたはずでは?」

「そうだけど、あんなのが落ちてきたら、どこにいても意味がなかったもんねー」


 シルクさんの言う通り、メテオは王城の全てを崩壊させる威力を持っていたと思う。

 ガーレッドがいなかったらと考えると、正直、今でも寒気がする。


「あれは僕ではなくて、ガーレッドの力なんですけどね」

「ビギャー?」


 ガーレッドは僕の横に座っており、小さなテーブルに料理を並べてもらっている。

 ……まあ、すでに空になっていて、皿だけになってるけど。


「はははっ! 今でもそう口にするのか。さすがは、ゾラ様の秘蔵っ子だな」


 僕は本当のことを口にしているだけなのだが、ユージリオさんは笑いながら話に入ってきた。


「あの場にコープス君がいなければ、ガーレッドもいなかったということだ。やはり、君も大事な役目を果たしたということだよ」

「ビギャン!」

「……それじゃあ、そういうことで」


 認めたくないが、ガーレッドにも説得されては、認めないわけにはいかない。


「しかし、ジン君にも驚いたが、まさかユウキが霊獣を連れてくるとは思わなかったな」

「本当だよな! あぁー、俺も欲しいぜ、霊獣」


 ユージェインさんとユセフさんは、レイネさんの膝の上でリラックスしているフルムの話題を出した。

 すると、気になっていたのかリーネさんとシルクさんも視線をそちらへと向ける。


「私も驚きました。それも、こんなにも美しい毛並みで、大人しい霊獣なのですから」

「ねえねえ、お母様! 私にも撫でさせてくださいよ!」

「いやいや、俺からだろう、シルク!」

「ユセフもシルクも、言葉が悪いぞ」


 おぉ、ついに次男と次女が長男に叱られてしまったよ。

 しかし、ユージリオさんもレイネさんも特に言及しないので、これがライオネル家のいつもの風景なのだろう。


「兄上たちも姉上たちも、忙しくなかったのですか?」


 そこへ心配の声を口にしたのはユウキだ。


「僕はライオネル家を出た人間です。わざわざ集まってくれなくてもよかったんですよ?」


 ユウキとしては、実家に顔を出しに来ただけ、という感覚だったのかもしれない。

 バジェット商会のことがなければ、宿を借りて泊まることすらしなかったかも。

 しかし、僕としてはユウキのことを考えて冒険者になることを許した家族が、家を出たからといって戻ってきたことを喜ばないはずはないと考えてしまう。


「そんなこと、理由にならないよ」

「そうですよ、ユウキ」

「お前は今でも俺たちの大事な弟だからな!」

「私なんて、ずっと反対してたんだからね!」


 兄や姉から優しい言葉を掛けてもらい、ユウキは恥ずかしくなったのか、嬉しそうにしながらも下を向いてしまった。


「……コープス君。それに、皆さん。これからもユウキのことを、よろしく頼む」

「親バカだと言われるかもしれないけれど、ユウキは努力家で、とても頭の良い子です。絶対に、皆様の役に立つはずですから」


 ユージリオさんとレイネさんが、ユウキを見つめながらそんなことを口にする。

 だが、僕にとっては当たり前のことである。


「知っています。それに、僕は今までも、今でも、ユウキには助けられっぱなしなんです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 そして、僕が頭を下げると、リューネさんたちも一緒になって頭を下げてくれた。


「ジン、みんな……ありがとう」


 僕たちは、ライオネル家でとても暖かな食事を楽しんだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る