結果だけを伺います
その表情は笑っている……うん、もの凄く笑顔だ。
後ろからやって来たユウキは苦笑を浮かべている。
ラッフルさんだけは、先ほどと同じ表情だ。
「あの商会、もう終わりでしょうね」
「……だ、第一声が、それですか?」
詳細を伺うと、どうやらバジェット商会はレイネさんから相当な怒りを買ったようだ。
開口一番からユウキを野蛮人だと罵った。
お腹を痛めて生んだ子供を罵られて、平気な親なんていないだろう。
ただし、罵っていた相手が突然恐ろしいものを見たかのような表情になって口を閉ざしたとのことだが……ユウキがひと睨みしたのだろうか。
「……あー、僕じゃないよ」
「そうなの?」
「……たぶん……じゃなくて、確実にラッフルさんだろうね」
「「「「「……ラッフルさん?」」」」」
現場にいなかった全員が首を傾げ、視線をユウキからラッフルさんへと向ける。
……全員の視線が集まっているのに、表情が全く変わらないのですけど?
「ほほほ、私もまだまだ現役ですなぁ」
「無理はしないでね、ラッフル」
「大丈夫でございますよ、奥様」
何やら気になる発言ではあるものの、話が進まないのでラッフルさんへの疑問は置いておくことにした。
そして、レイネさんはいつの間に集めていたのか、バジェット商会のあれやこれやをぶちまけていったらしい。
「あの商会に目を付けている貴族が多かったからね。軽く調べていたのだけど、そしたら出るわ出るわ」
「……問題が出たんですよね?」
「その通りよ。意図して問題のある商品を並べていたり、それも時間がない子持ちの女性を狙って置いていたみたい」
「何よそれ。最低な野郎じゃない」
リューネさんが相づちを打つが、その言葉使いにメイドさんから再びジト目が向けられる。
気にしていないのか、リューネさんはメイドさんに軽い笑みを返していた。
「本当に。私は貴族で多くの人の手を借りて子育てをしていたけれど、それでも大変だったわ。その全てを一人でやっていたらと考えると、本当に最低な商会よ」
やっていることも最低だし、ターゲットにしていた相手がこれまた最悪だ。これでは、女性を敵に回しているようなものではないか。
バレなければいいと思っていたのかもしれないが、バレてしまえば総崩れになること間違いなし。
こんな綱渡りをしないといけないような商会だったなんてなぁ。
「それが王都で立派な商会として活動していたなんて……あの、こう言っては何ですが、大丈夫なんですか?」
「ジン君が心配するのも分かるけど、バジェット商会は王派と国家騎士派がぶつかった、あの日以降に立ち上げられた商会なのよ」
「そうなんですか?」
またメイドさんが睨んでいるが、もう僕も気にしないでおこう。
……あ、ラッフルさんが何か言ってるな。もう大丈夫だろう。
「あの時に潰れてしまった商会も多くてね。信用の高い商会もあったんだけど、そのほとんどが国家騎士派と結びつきがあった商会だったわ。そこで、新たな商会を立ち上げる商人が多かったんだけど……今はまだまだ、見極めの時なのよ」
なるほどなぁ。
一定の基準を満たした商人には商会の立ち上げを認め、様子を見る。
そこで成り上がった商会は大きくなり、失敗した商会は再び潰れていく。
これを繰り返して再び大きな商会を作り上げようとしているのだろう。
バジェット商会は上手く悪行を隠していたけど、今回のことで公になったってことか。
「それでは、レイネさんがバジェット商会のあれやこれを知っていたのは、多くの新興商会を調べていたからですか?」
「その通りよ。もっと早く手を打っておけば、ユウキにも、ジン君たちにも迷惑を掛けなかったのだけど……本当にごめんなさいね」
ちょっと、貴族の奥様が謝らないでくださいよ! これじゃあまたメイドさんから……あ、目を逸らしている。睨みたいのを我慢しているのかな。
「バジェット商会はすぐにでも消えていくはずよ。ある程度大きく育ってはいましたが、今回の所業はバレてしまえば立て直せないものだからね」
「本当ですね。そういうことなら、私たちがやったことも少しは手助けになったのかしらね」
「だといいんですけどね」
「あら、ジン君。歯切れが悪いわねー」
バジェット商会は潰れるだろう。
だが、潰れたとしても商会の人間が消えるわけではない。
王都にいる間は、警戒する必要はありそうだなと思ってしまうのだった。
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