騎士団の稽古場
ポーラ団長は寄り道する事なく、騎士団の稽古場に案内してくれた。
正直、途中で何かしら理由を付けて離れようと思ったのだが、全くその隙がなかったのは悔しい。
ユウキたちも僕の意図に気づいたようだったが、その全てがポーラ団長の『さあ、行きましょう!』の一言に一蹴されてしまった。
「到着しました!」
稽古場では多くの騎士たちが訓練を行っていたのだが、ポーラ団長の声が聞こえたからだろうか、その手を止めて一斉にこちらを振り返る。
「ポーラ騎士団長に敬礼!」
「「「「はっ!」」」」
その一糸乱れぬ姿はとても壮観であり、見ていて心地良さすら感じてしまう。
「さあ! 模擬戦をいたしましょう! さあ、さあ!」
……隣で一人興奮しているポーラ団長がこうじゃなかったら、もっとよかったんだけどなぁ。
「失礼いたします! ポーラ団長、オレリア部隊長!」
そこに声を掛けてきたのは、一人の男性騎士だ。
「どうしましたか、ギャレオ・バリオット」
「はっ! そちらにいらっしゃいますのは、王都襲撃時の英雄、ジン・コープス様では?」
ここでも英雄ですか。しかも、様付けって。
「その通りです。ギャレオは現場にいたのかしら?」
「はい、オレリア部隊長! あの時のコープス様の動きは素人ではありませんでした。素早い足捌きに剣筋、何より放たれる威圧感は味方と分かっていても、畏怖を禁じ得ませんでした!」
「おぉっ! ユウキ殿だけではなく、ジン殿も凄腕なのですね!」
「いやいや! あれはスキルの効果と言いますか、俺ではない奴が……あぁぁ、なんて説明したらいいのか分からないよ!」
英雄の器について教えるわけにもいかず僕がもたついていると――
「ぜひ私たちとも模擬戦をしていただきたいのです!」
「絶対に無理です!」
僕が模擬戦なんて、絶対に十秒も耐えられないから!
そもそも、模擬戦はユウキとリューネさんだけが受けるはずじゃなかったのか!
「わ、私とも模擬戦を!」
「私もです!」
「僕もお願いします!」
……こ、これは、絶対に拒否できない状況に追い込まれていないか?
「あはは! なんだか楽しくなりそうね!」
「リューネさんも止めてくださいよー」
「私に話を振った罰が当たったのよ。というわけで、ジン君も頑張りなさいよね!」
うん、文句も何も言えなくなってしまったわ。
とはいえ、僕が戦えるわけもないし、ここは久しぶりに――
(――呼んだか?)
(今から呼ぶつもりだったんだよ――エジル)
声に出したら怪しまれるので、僕は心の中でエジルと会話する。
(僕が模擬戦に参加することになったら、ある程度打ち合いながら、程よく勝ってくれるか?)
(――あれ? 勝っていいのか?)
(まあ、見たことのある人の前で下手なことをしたら手加減していることがバレるからな。上手く勝ってくれればそれでいいさ)
本当は僕は鍛冶師だし、戦闘に強いなんて思われたくないのだが、過去を変える事はもうできないからな……はぁ。
(――まあ、ジンがそういうならいいぞ。っていうか、そっちの団長さんとやりたいんだが?)
「それは却下!」
「ん? どうしたのだ、ジン殿?」
おっと、つい声が出てしまった。
「いえいえ、ちょっと独り言を。模擬戦は、三人までなら大丈夫ですよ」
「おぉ! では、ギャレオともう一人、選んで来い!」
「ありがとうございます!」
「あれ? ギャレオさんと、もう一人ですか? 三人までなら――」
「最後の一人は私だ!」
……えっ?
「えっと、ポーラ団長はユウキと模擬戦をするんですよね?」
「僭越ながら、ユウキ様とは私が模擬戦を行います」
「オ、オレリアさんが?」
「はい。ですので、コープス様は存分にポーラ様と模擬戦を! あぁ、汗をきらめかせ、剣を振るうポーラ様のお姿を想像しただけで……ふふ、ふふふふふっ!」
もうこの展開は嫌だ!
さっさと模擬戦を終わらせて、この場から立ち去りたい!
「お待たせしました、ポーラ騎士団長」
「今度は何なん――えっ?」
突然模擬戦の入口から声がしたので振り返ると、そこにはユージリオさん率いる魔導師が姿を現した。
「なるほど。精霊魔法の使い手というのは、リューネさんでしたか」
「……忘れられてなかったかぁ」
この場に騎士しかいなかったから忘れられていると思っていたリューネさんだったが、どうやら模擬戦は逃れられないようだ。
「私たち国家魔導師も参加させていただきます」
「もちろんです! では、模擬戦を始めましょう!」
僕たちは顔を見合わせると、大きく溜息をつく。
「えっと……み、皆さん、頑張ってくださいね!」
この場で唯一観客になる事ができるフローラさんが、羨ましいよ。
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