一番の理解者

 ダンジョンを脱出した僕たちは、すぐにカズチたちが待つ洞窟へと向かった。

 羽柴が言うには安心ということだが、それでも僕の足取りは自然と早くなっていると自覚している。

 そして、洞窟に到着して中に入ると――


「おっ、戻ってきたな」

「ジン君、みんな、お帰りなさーい」

「お疲れ様です、皆様」


 ……あ、あれ? 三人とも、ものすご〜くリラックスしてないか? お茶を沸かして飲んでるし。


「あれ? 新しい人がいるじゃないか。どうしたんだ?」

「本当だ! 可愛い女の子だけど……ジン君、どうしたの?」

「まさか、誘拐?」

「ちょっと、フローラさん⁉︎ なんでそこで誘拐って発想になるかなあっ‼︎」


 いくら僕が規格外だとしても、そこまで人を捨てた覚えはないんだけど!


「あはは、すみません」

「でも、ジン君ならやりそうだよねー」

「まあなー」

「ルルにカズチまで!」

「あっ、悪い意味じゃないぞ? どうせ理由があるんだろう? ダンジョンに行っていて女の子を連れてくるとか、普通じゃないしな」

「……いや、まあ、そうなんだけど」


 なんだろう、勢いに任せて怒鳴ってしまった僕が恥ずかしいじゃないか。

 というか、カズチもルルも僕のことを理解しすぎじゃないかなぁ。


「ジンが意味もなく何かをする時なんて、鍛冶や錬成が絡んだ時くらいだからな!」

「うんうん! それ以外のジン君って、変に冷静というか、判断に間違うことってあまりないよね!」

「……なあ、それって誉めているのか? それとも貶しているのか?」

「「褒めてるけど?」」


 ……あっ、そうなのか。なんだろう、素直に喜べない自分がいるんだけど。


「それで、実際のところその子はどうしたんだ?」

「そうだよ! 紹介してよ!」

「あー、まあ、そうだね。そこから説明が必要だよね」


 というわけで、僕は簡潔に羽柴のことを説明することにした。


「彼女は、魔王です」

「「「……はい?」」」

「ち、違いますよ! 元魔王です!」

「「「……ま、間違ってないけど⁉︎」」」

「それと、僕の知り合いだ」

「「「……そっか、知り合いなんだー」」」


 ……なんだろう、最後の方は呆れて思考を停止したんじゃないだろうか。それとも、僕の知り合いなら魔王でもいそうとか思ってたりしないよな。


「ねぇ、ジン。そろそろ説明してくれないかな? どうしてジンと魔王が知り合いだったのかを」

「私も気になるなー。実はジン君、ハイエルフで私よりも年上とか?」

「可能性はゼロではなさそうですね」

「いや、可能性はゼロだから。僕は人間だからね! ……いや、人間なのかな?」

「「「「「「やっぱりハイエルフ⁉︎」」」」」」

「それはないから!」


 ここまで話をしておいて、僕が前世の記憶持ちだということを隠すわけにはいかないか。

 それは同時に、羽柴も僕と同じであることを伝えることにもなる。

 念のために羽柴にも確認を取ってみようとしたのだが、視線を向けただけで大きく頷いてくれた。


「……ありがとう、羽柴」

「先輩を信じてますからね」


 そして、そこからは僕の独白に近い感じになっていった。

 前世の記憶持ちというところから、元は全く別の世界にいたこと、そこで死んでこちらの世界に転生したこと。

 転生したから規格外のスキルを得ていたのかはわからないけど、前世の知識を活かして色々な魔法を作っていたということも説明した。

 最初こそ全員が唖然としていたが、徐々に表情を改めて真剣に耳を傾けてくれた。


「……ゾラさんには話をしているんだ」

「まあ、そうだよな」

「うん。ゾラさんが言うには、神の落し子って言うらしいよ?」

「神の落し子って、お伽話に出てくるような、あれか?」

「そうみたい。僕が実際に神様に会ったとか、そういうのではないんだけどね」

「……そっか。だから変に大人びていたり、色々な知識を持っていたんだな」


 カズチはそう口にすると、大きく息を吐き出した。

 ……まあ、そうなるよね。

 僕がこっちの世界に転生してからずっと一緒にいたのに、この事実をずっと隠していたんだから、それは失望するよね。

 カズチには話しておかないとと思っていたんだけど、タイミングをずっと逃してしまっていたんだ。

 もしかすると、もう今までと同じような関係は築けないかもしれない。


「……うん、そっか。まあ、納得だな」

「……えっ? 納得、なのか?」


 しかし、カズチからは予想外の返答が口にされた。


「そりゃそうだろう。どこかおかしいなーってのは、全員が思っていた感想だと思うし、前世の記憶持ちってことなら納得だろう」

「……みんな、そうなのか?」


 俺がカズチから他の人に視線を向けると、全員がうんうんと頷いている。


「……気持ち悪いとか、思わないのか?」

「俺がどれだけお前と一緒にいると思っているんだ? そんなの、今さらだろうが」


 そして、ニカッと快活な笑みを浮かべたカズチを見て、僕の瞳からは自然と涙がこぼれ落ちていた。


「なんだ、泣いてるのか?」

「そ、そんなわけないだろう! 僕は大人なんだぞ!」

「そうは見えないけどなー。……俺より背も低いし」

「し、身長は関係ないからな!」

「ははは! そうだな、そりゃそうだ!」


 ……カズチ、ありがとう。

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