風属性魔法
ユウキが言うには、短時間でこれだけ火を大きくできるのはとても優秀なんだとか。
シルくんは素直に喜び、頬を赤く染めている。
これなら風属性の魔法操作に移っても問題ないだろうと太鼓判も押されたので、僕は次の段階へ進むことにした。
「今度は風属性だから、火属性と同じで今の状況を確認するね」
「はい! でも、どうやって?」
「今まではどうやっていたの?」
「実は、風属性はそこまで大事だと思われてなくて、今まで使ったことがないんです」
……なんと、それはまた予想外。
「……ユ、ユウキ、そんなものなの?」
せっかく持っている属性なのだから練習するのが当然だと思っていたのだが、この考え方も普通ではないのだろうか。
僕は不安に思いユウキに聞いてみた。
「職業にもよるかな。ジンみたいに鍛冶師を目指すなら火属性優先になるだろうし、シルくんも日常生活で役に立つ属性を優先していたら、風属性よりも火属性になるはずだからね」
まあ、火なら料理だったり暖を取るのにも使えるか。
火力は足りないけど、種火としてなら問題ないわけだし。
「他にも、ジンだって一般スキルのレベルにムラがあるだろう? それと同じだよ」
「ムラ……あー、確かにそうだね」
僕に置き換えるとものすごく納得してしまった。
水属性と無属性が4で、火属性が3なのに対して、闇属性はいまだに1である。
他の属性が2だと考えると、上と下でムラがあると言えるだろう。
「でも、シルくんは魔法操作を覚えるのも早そうだし、視覚で見てイメージする力もあるからある程度はすぐに使えるようになると思うよ」
ユウキ、そんなに褒めてたらシルくんが爆発しちゃうよ。
さっきでも赤くなってたのに、今では真っ赤になってるから!
「そ、それじゃあ風属性の練習に移ろうか!」
「お、お願いします!」
シルくんも自分が褒められてどうしたらいいのか分からなくなっていたみたいで、すぐに練習に入ってくれた。
「風を視覚化するのは難しいと判断したので、こんなものを用意してみました」
僕が用意したもの、それは長めの棒に紐を数本垂らした道具。
「これ、なんですか?」
「
「は、はい……」
困惑しながらも、シルくんは暖簾に息を吹き掛けた。
すると、紐が風に揺られて前後左右に動き出した。
「息を吹いた方向に紐が揺れたでしょう? そこを風が通り抜けたってことは分かるよね」
「はい。……なるほど、風の通り道が紐で見えるようにしたんですね!」
「そういうこと。これなら何もないところで練習するよりも少しは分かりやすいかなって思ったんだ。慣れてきたら、別のことも考えてるからね」
シルくんにそう言った僕は少し離れたところに立って暖簾を右手で持ち突き出した。
「これに風を当ててみて」
「……えっ、ええええぇぇっ! そ、それはダメですよ!」
「えっ、何でダメなの? 風をそよがせるだけだよ?」
「……コープスさん?」
……おぉぅ、ホームズさんの視線がいたいけを通り越して怖いです! また何かやらかしたのだろうか?
「シルくんが言っているのは、失敗してコープスさんに怪我をさせることを恐れているんですよ」
「怪我? 風で?」
「慣れない魔法は確かに威力は低いですが、逆に威力が上がり過ぎてしまうこともあるんですよ」
「そ、そうですよ! 何か別の方法はないんですか?」
大ケガをする、ということはないだろう。だけどシルくんの気持ちを考えたら別の方法を考えるべきだった。
「やはり、コープスさん一人に任せなくてよかったですね」
「本当ですね」
「……ううう、みんな酷い! 間違ってないけど!」
そんなことを言っていても意味がないので、僕は簡易的に土を盛って高さを作り、そこに拾ってきた枝に水を与えながら成長を促進させて長くする。
長くなった枝を土に突き刺すと、その先に暖簾をひっかけることにした。
「これでどうですか! これなら誰も傷つかな……い?」
自信満々で振り返った僕が見たものは、頭を抱えるホームズさんに苦笑するユウキ。そして口を開けたまま固まっているシルくんの姿だった。
「……えっと、あの、どうしたの?」
「コープスさん、あなたには自重という言葉はないのですか?」
「ジン、やり過ぎ」
「土に、水に、木ですか? 風も持ってて、火もあるって言ってたし……えっ?」
自重……僕の自重は、どこかに落としてきたみたいです。
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