シルの実力
まあ、今は僕の自重については置いておくとしてシルくんの魔法操作の練習が大事である。……そう思うことにしよう。
僕が言った通りにこれなら誰も怪我をする恐れもないのだからいいのだ。
「シルくんは自分の魔法操作についてだけ考えるように。僕のことは気にしないでいいからさ!」
「……いや、無理ですよ!」
えぇー、そう言われると困るんだけどなぁ。
「シルくん。ジンは規格外だからほんとうに気にしない方がいいよ?」
「そうですよ。我々も驚かされることばかりですからね」
「ライオネルさんやホームズ様が驚かされるって……本当に規格外なんですね」
「「その通り」」
師弟が揃って答えたことでシルくんも納得顔である。
……声が揃うことは慣れっこですけど、それでシルくんが納得するのはどうかと思うなぁ。
「と、とりあえずシルくんは自分のことだけを考えること!」
「は、はい!」
気を取り直したシルくんは僕が作った暖簾めがけて右腕を突き出した。
……うん……えっと…………?
「シルくん?」
「……すみません、風属性は苦手で、もう少し待っててくれませんか?」
「あっ、ごめん」
…………もしかして、これも普通のことなのだろうか。
確かに視覚化できないことでイメージが難しいかもしれないけど、ここまで時間が掛かることだろうか。
横目でユウキを見ると表情も普段通りなのでやはりこれが普通なのだろう。
その時、暖簾が微かに揺れたのが見えた。
「で、できましたよ!」
「うん、上出来だね」
「そうですね」
……えっ、そうなの? 今のはそれでいいの? 本当に微かに揺れただけだったよ?
さすがにこれは違うんじゃないかと思ったのだが、シルくんは本当に喜んでいるしユウキとホームズさんも手放して誉めている。
「……もうちょっとできるんじゃない?」
「「「……えっ?」」」
二人が誉めているのだから、おそらくこれが普通なのだろう。
でも、僕はこれで満足するわけにはいかない。何故ならシルくんに掃除を手伝えるくらいになってほしいからだ。
「コープスさん、さすがにそれは言い過ぎですよ?」
「そうだよジン。これは凄いことなんだよ?」
「そうかもしれないけど、僕はシルくんならもっとできるはずだと思ってるよ。火属性の時だってすぐに上達したんだから」
「で、でも、どうやって?」
心配そうに呟くシルくんに対して、僕は右手を暖簾に向けて風属性魔法を発動する。
単純に真っ直ぐな風を吹かせるだけで暖簾が前と後ろで大きく揺れた。
「僕が見本を見せるよ」
「今のを俺にもやれってことですか? その、いきなりはさすがに無理ですよ」
「確かに見えないからイメージが難しいよね。だったら、見えるようにしたらいいんだよ」
「風を、見えるように?」
首を傾げるシルくんと同じように、ユウキとホームズさんも顔を見合わせながら困惑している。
風属性だけでは視覚化なんてできないだろう。だが、他の属性を併用して使えば可能なはず。
「とりあえずこんな感じだね」
色々と考えた結果、僕は風の通り道に土を乗せて擬似的に見えるようにしてみた。
土ならどこにでもあるので準備の必要はほとんどないし、費用だって掛からない。
ある程度の魔法操作ができるようになれば都市の中でも練習くらいならできるだろう。
僕はシルくんが風に乗って移動する土を見てどのような反応をするのか振り返ってみた。
「……す、凄いです! 風に土を乗せるなんて、やっぱり風属性のレベルがとても高いんですね! 昨日の掃除も素晴らしかったし、本当に凄いです!」
驚きと興奮で声が大きくなっているシルくんに、僕は少しだけ苦笑する。
だって、ホームズさんとユウキからは同じ反応を得られるはずがないんだもの。
「……ジン、また変なことを」
「……コープスさん、あなたという人は」
やっぱり。
これは併用魔法ではないしそこまで驚くことではないと思うんだけどな。
二人の反応は置いておくとして、今はシルくんが重要なのである。
「視覚化できないと風が分散していつの間にか自然の風と混ざってしまうことが多い。風をできるだけひとまとめにして飛ばす、まずはそこから覚えていこう」
「はい!」
僕はシルくんの隣に立って土を握る。
シルくんは風を一直線に吹かせるイメージを作り上げていく。
「風を一直線、土が飛ぶイメージ、真っ直ぐ、真っ直ぐ」
右手から風の流れを感じた僕は土を風の上に落としてみた。
──フワッ。
土は三メートル先まで真っ直ぐに飛んでから地面に落ちた。
初めてでこれは凄いのかどうなのか。
僕はシルくんの表情を見て見たのだが、目を大きく開いたまま固まっている。
……判断がつかない。
そのままホームズさんとユウキの方へ向いたのだが……あー、うん、相当凄いみたいだ。こちらは口を開けたままで固まってしまっているよ。
そこからシルくんの様子を見ながら魔法操作を続けていき、土を五メートルくらいまで飛ばせるようになったところで休憩することになった。
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