閑話:ゴーダ・ナルーゼ

 全く、あの王様は面倒事が起きたらすぐに俺のところに来やがるな。

 こちとら引退した身なんだぞ? 現役の暗部に頼めっての、マジで。


「……あーあー、やっちまったな、こりゃ」


 俺は今、森の中にいる。

 そして目の前ではゴブニュ様とケヒート様を乗せた馬車が襲われていた。

 助けに出るべきなんだろうが、ここで俺が飛び出せば王様との約束を反故にしちまう。


「……手荒な真似はされないか?」


 奴ら──国家騎士派の目的は王派を貶めて権力を手中に収めることだ。二人がその材料になるなら、殺すようなことはしないだろう。

 案の定、奴らは護衛にだけ手荒な真似をしただけで、二人は眠らせるだけで連れていきやがった。


「……へぇ、こんなところに隠し通路か」


 暗部を引退するまで、長い間王様に仕えてきたが隠し通路を見たのは初めてだな。噂には聞いていたが……。


「国家騎士派が知ってるってことは、内通者がいる? それとも上層部に裏切り者がいるか?」


 ……いかんいかん、俺の仕事に政権争いは関係ないか。昔の癖で色んなことを考えてしまうから気をつけないとな。

 俺はスキルを発動して国家騎士派を追いかける。

 隠し通路は一本道だ。普通なら見つかっちまうが、俺には特別なスキルがあるんだな。

 オリジナルスキル──影の支配者。

 時間制限はあるものの、一定時間周囲へ完全に溶け込み隠れることができる。

 元暗部としては、これほど暗部に有益なスキルはないだろうと思っている。

 俺が引退するって言った時は、全員が引き留めに来てたっけか。

 ……まあ、その時にもスキルを使って逃げ出したがな。


「……ここは、城の地下……牢屋に繋がっているのか」


 隠し通路を抜けた先で見たのは、一つの牢屋にはゴブニュ様とケヒート様、別の牢屋には護衛がまとめて放り投げられていた。


「これで俺達の勝ちだな」

「王と『神の槌』は懇意にしているからな。後はカマドに裏切りの疑いありと噂を流してしまえば、二人を捕らえた理由にもなる」

「王派など、滅んでしまえばいいんだ」


 そんなことを話ながら国家騎士派はそのまま来た道を引き返していく。

 どうやらすぐにでも何かしら事を起こすつもりはないらしい。

 この場で助け出すのもありだが、まだ情報が少なすぎる。

 二人や護衛には悪いが、ここはそのままにしておこう。


 ※※※※


 俺が王様に情報を伝えてから数日ほどスキルを使いながら様子を見ていたが、やはり手荒な真似はしなかった。

 そして、カマドから懐かしい奴がやって来たようだ。


「ザリウスが来たのか」


 おそらくこっちにも来るだろう。

 とりあえず、噂として情報を流しておくか。


 ……おいおい、確かに来たが、変な坊主まで連れてきてやがる。それも霊獣連れときたもんだ。

 どこから拾ってきたのかは分からんが、面白い坊主だな。

 俺は情報をある程度伝えて、そのままザリウス達と別れた。


 ※※※※


 くそっ! 誰がしくじりやがったんだ?

 情報が国家騎士派に漏れて、やけを起こしちまったじゃねえか!

 まさか白昼堂々と城の中で魔法をぶっぱなす馬鹿がいるとは思わなかったぞ!

 俺はすぐに王様のところに向かったんだが──


「ゾラ達はこちらで保護している。ゴーダは捕らえられている護衛を守るのじゃ」


 あっさりとそう言ってきたので、何か考えがあるのだろうと信じて牢屋へ向かう。

 情報隠蔽の為だろうな、国家騎士派が五人、牢屋に向かって歩いている。

 城の中では至るところで戦闘が始まっている。なら、ここで暴れても問題はないか。

 まあ、俺の場合は暴れるって表現は違うけどな。


 ──どさっ。


「なっ! しゅ、襲撃だ!」

「だが、どこからだ!」

「見えなかったぞ!」

「気をつけ──がっ!」


 影の支配者を発動、後方にいた二人の首を手刀で打ち抜き気絶させる。

 残り三人、このまま終わらせるか。


「おい! 何があった!」

「気をつけろ! 襲撃だ、何かがいるぞ!」


 増援が三人、これで残り六人になったか。

 ……仕方ねえ、ちょっくら本気を出すか。


「──絶影ぜつえい


 俺は拳を握りしめると、国家騎士めがけて──ではなく、そいつの影を俺の影で殴り飛ばした。


「があっ!」

「ふあぁ」


 悲鳴と変な声を上げて二人が倒れる。


「ま、また見えない襲撃だと!」

「くっ、何が起こっているんだ!」

「待て! あの影はなんだ!」


 ほう、気づいた奴がいたか。だが遅すぎだな。

 俺はそこから数秒の内に全ての国家騎士派を気絶させた。そしてまもなく──


「おっ、あれは王派か? ……あー、そうだな、団長と娘の方か」


 王派筆頭の二人が来たってことは、こっちは問題ないだろう。


「──うわっ! な、なんだこれは?」

「──ポーラ様、彼らは国家騎士派の面々です!」


 遠くからそんな会話が聞こえてきたが、俺は気にせずに王の間へ向かった。


 ※※※※


 結果的に言えば、俺は間に合わなかった。

 結末をこの目にできなかったのは悔しかったが、応接室にこいつが残されたことで納得してしまった。

 ──ジン・コープス。

 坊主がザリウスと酒場に来た時から面白い坊主だとは思っていたが、まさかオリジナルスキル持ちだとはな。それも破格の能力ときたもんだ。

 あっさりと暴露した時には笑いそうになっちまったが、悪い方向には使わなさそうだし安心だわ。

 そして、俺としては坊主よりも驚いたことがもう一つ──霊獣の方だ。

 確かガーレッドと言ったか? まさか晶石しょうせきを食べる霊獣にお目に掛かれるとは思わなかったぞ。


「こいつは、伝説の霊獣の一匹だな」


 そんなことを、俺は酒場に戻ってから一人呟いちまった。

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