調査の経過報告
食事をしながら雑談に花を咲かせていた時、リューネさんがあることを話題にしてきた。
「そうそう、ケルベロス事件の調査について途中経過が届いたわよ」
魔獣の大量発生、上級魔獣の出現、それらの調査が冒険者によって行われていた。
僕に話してもいいのかと心配になったが、軽い感じで話し始めた。
「ジンくんは当事者だからね。後でゾラくんにも報告する予定だし構わないわよ。それでね、森の調査は東、西、南の森には全く異常がなかったの。ただ、ケルベロスが現れた北の森だけは異常ばっかりだったわ」
「と言うと?」
「魔獣の異常発生はもちろんだけど、縄張りの変化や生息していなかった魔獣が確認されたり、ほとんどの魔獣が興奮状態になっていたり、明らかに生態系がおかしくなっているのよ」
この現象が北の森だけで止まっていると分かっただけで多少の安心感は得られるだろう。
だけど、ならば何故北の森だけに異常が出ているのかと言うことにもなる。
「カマドに近い森の中は比較的変化は見られないんだけど、奥に行けば行くほど変化が大きくなっているの」
「……それって、つまり?」
「北にある都市--王都が何かしら関係している可能性があるわね」
正直、ここまで大ごとになるとは思っていなかった。
たまたま強い魔獣が現れたから生態系が壊れました。だけど討伐したから徐々に直ります。
その程度だと考えていたんだけど、まさか王都が関係してるかもしれないなんて。
「……僕、当事者じゃないです」
「突然どうしたのよ?」
「だって、面倒臭そうなことに巻き込まれそうで嫌なんですよー」
僕は静かに生産に従事したいのだ。ケルベロス事件もそうだけど争い事は嫌いだし、王都関連の事案には関わり合いたくないのだ。
戦争の話も聞いているし、絶対に嫌なのだ!
「まあ、その気持ちは分かるはよ。でも安心して、王都から何か聞かれたとしてもジンくんの名前は出さないから」
「……それって、いいんですか?」
当事者の名前を出さないって、情報隠蔽にあたるんじゃないだろうか。
「ゾラくんとも話したけど、個人名は一切出さないわ。『神の槌』が何者かに襲撃されたからその襲撃犯を追跡、その途中で偶然ケルベロスを発見したから討伐し、その調査にあたっている。これが現在の調査内容だからね」
「……なんか、そんな理由でいいんですかね?」
「いいのよ。それに、本当のことも含まれているんだから問題ないわ」
アバウト過ぎて心配だけど、そこはまあ、うん、信用するしかない。
それにしても本当に王都はきな臭い。ケルベロス事件が関係しているのかは分からないけど、可能性があるならば近づかない方が賢明だろう。
「調査は北の森を中心に継続されているから、また何か分かれば知らせるわね」
「僕は生産が出来ればそれでいいんですけどねー」
「またそんなこと言って、もっとたくさん遊びなさいよ!」
「生産が楽しいからいいんですー!」
ケルベロス事件や王都なんかよりも生産の方が重要なのだ。そんなことに関わっている暇はないし、遊ぶよりも生産について学んでいた方が楽しい。
「ジンくん、真面目だねー」
「そう思えるルルは偉いな」
「えっ、どうして?」
「普通は変な奴だなー、って思うだろ」
何気にカズチが酷いんだけど!
「そうだそうだ、言ってやれカズッチ!」
「だからその呼び方やめろよ!」
「えー、可愛いからいいじゃないのよー! ねー、ルルちゃん!」
「あはは、私に言われてもー」
リューネさんは真面目な話の中に冗談も交えてくるのでどこまでか本気でどこまでが冗談か分からなくなる時がある。
でも、王都から何かを聞かれた時に僕の名前を出さないと言ってくれたのは本当だろう。
ダリアさんにもそうだったけど、リューネさんにも感謝の念しかないな。
「ねぇーねぇー、ジンくん。今度私にも何か作ってよ!」
「役所の仕事に武具なんていらないじゃないですか」
「売ってお小遣いにするのよ!」
「絶対嫌です。失敗作ならいいですよ?」
「失敗作なんていらないわよ! あっ、でもそれも高く売れるかもしれない?」
「やっぱり何も作りませんし、あげません」
「えー! ひっどいなー!」
「頼むならゾラさんに頼めばいいじゃないですか」
「ゾラくん、くれないんだもん」
「じゃあ僕も売りますよ? 適正価格で」
「それじゃあ意味ないー!」
僕たちのやり取りをカズチとルルは笑いながら聞いている。
こんな普通の日常もたまにはいいものだなと思いながら食事を終えた僕たちは、コフィナを出てそのままリューネさんと別れた。
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