ランチタイム

 ダリアさんの助けも借りて何とか初めての依頼は無事に受理された。


「この後はどうするの?」


 雑貨屋さんにも寄り、冒険者ギルドで依頼も行なった。本日の予定は全て終わったと言っていい。

 もう一度雑貨屋さん巡りをしても良いのだが、一日であまりに多くの情報を詰め込むのもあまりよろしくないので却下である。

 僕が考え込んでいるとルルが口を開いた。


「もうお昼だし、ランチに行かない?」

「えっ、もうそんな時間なの?」


 気付かなかったが、既に五の鐘が鳴っていたようだ。


「よく行くカフェがあるんだけど、若い子に人気でとても美味しいんだ」

「お腹も空いたし、そうしようか」

「そうしなさい。ザリウスがご飯にも使えって言ったんでしょう? そこから三人分出せちゃうわよ」

「ピキャー!」

「あらあら、ガーレッドも食べたいのね。三人分とガーレッドの分、どっちも大丈夫よ」

「ピキャン!」


 両手をパタパタさせて喜んでいるガーレッドに全員の視線が集まりとろけるような笑顔を見せている。


「はぁ、私も霊獣が欲しいわ」

「霊獣ってそんなに珍しいんですか?」

「カマドでも契約している人は少ないわよ。それこそ貴族とかじゃないかしら。王都なら多少は見かけるって聞いたことあるけどね」

「冒険者は?」

「いるにはいるけど、上級冒険者くらいじゃないかしら」


 そういえば、ガーレッド以外の霊獣をまだ見たことがない。

 人が集まる冒険者ギルドでも見ないってことは、本当に数が少ないのだろう。


「ペットとか飼ったらどうですか?」

「仕事が忙しくて育てられないわ。霊獣なら仕事中でも連れて歩けるけど、ペットとなればそうもいかないからね」

「霊獣は大丈夫なの?」

「貴重だからね。ガーレッドも攫われそうになったから分かるでしょ?」

「あぁ、そういうことですか」


 つまり、家でお留守番をさせていても盗まれる危険性があるってことだ。

 だからこそ仕事中でもそばに置いて自分で守らなければいけない。

 これが成獣になって自衛できる霊獣なら違うかもしれないが、幼獣であれば尚のことだろう。


「ガーレッドの存在はケルベロス事件で公になっちゃってるから、気をつけるのよ?」

「はい、ありがとうございます」


 別れ際にぺこりと挨拶をしてから、僕たちはダリアさんと別れた。


 ちなみに、冒険者ギルドではここ二、三日でカマドにやってきた冒険者からはガーレッドに対して奇異な視線が集まっていたのだが、ここでも助けに来てくれた冒険者たちが口を挟んでくれた。


『--『神の槌』はでけぇクランだから、あいつを敵に回すんじゃねぇぞ!』


 少し乱暴にも思えるが、これくらい強く言って置いた方が良いのだそうだ。

 ここでも頭を下げながらお礼を言って冒険者ギルドを後にした。


 ※※※※


 ルル行きつけのカフェは冒険者ギルドを出て西地区より、『神の槌』本部とのちょうど真ん中くらいの場所にあるコフィナという名前だ。


「いらっしゃいませー、何名様ですかー?」

「三名で--」

「あれ、みんなもお昼ご飯なの?」


 人数を告げようとしたルルだったが、こちらに声を掛けてくる人物がいた。


「あれ、リューネさん?」

「私もちょうどお昼休憩なんだー。よかったら一緒にどう? 一人だと寂しいのよね」

「そういうことなら」

「はーい、四名様ですねー」

「ピッピキャー」

「……ぴっぴきゃー?」


 店員さんが首を傾げてしまったので僕は慌てて口を開く。


「す、すいません! 霊獣の子供がいるんですが、一緒でも構いませんか?」

「……霊獣! 全然構いません! むしろ見せてください!」


 語尾の伸ばし方が明らかに変わっていたがここはガーレッドが可愛いから仕方ないのだろう。


「それでは、四名様と一匹ですね!」


 少しだけアクシデントがあったものの、僕たちはリューネさんを加えた四人席で食事をすることにした。ガーレッドは僕の膝の上である。

 ルルはいつも頼むというパンケーキの生クリーム乗せを、リューネさんはふんわりパンと新鮮野菜とチーズのサンドイッチを注文する。

 僕とカズチは初めて訪れたお店なので、人気ナンバーワンと書かれている紅茶のパウンドケーキを注文し、ガーレッドには果物が良いと思いフルーツ盛り合わせを注文した。

 他のテーブルには女性客が多く、男性客はまばらだ。メニューを見ても女性をターゲットにしているのかデザート寄りのメニューが多い気がする。


「私、ここのパンケーキが大好きで外に行く時は必ず食べちゃうんだ!」

「食材も新鮮だし、私も好きなのよねー!」


 盛り上がる女性陣に対して、男性陣はお腹が空いているためそのあたりはどうでもよかった。

 どの世界でも美味しい食べ物は可愛いと同じで正義らしい。


「ここってそんなに人気なの?」

「カマドのカフェでは一、二を争う人気店だよ!」

「男の子は分からないかなー」

「食べられればそれでよくないか?」

「「ダメ!」」


 カズチが目をまん丸くして驚いている。隣に座る僕も。


「味! 香り! 見た目! 全てが大事なの!」

「そして、その全てが揃っているのがコフィナなんだよ!」


 珍しく強い語調で主張してくるので頷くしかできなかった。

 美味しいご飯のことで女性に否定的な意見を言ってはいけないなと反省する。


「お待たせしましたー」


 そこに注文した料理が運ばれて来たことで視線が集まり、全員が食事に集中したのだった。

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