合流
特にやることがなくなった僕たちはカマドの散策を行なっていた。
初めて訪れた時と同様にあちらこちらから響く槌の音が心躍らせる。
しかし、この音が僕の鍛冶やりたい病を発症させてしまうので体がウズウズしてきたな。
本当にやることがなければ本部に戻って練習したいなぁ、なんて考えている時だった。
「あっ! やっと見つけたよ!」
「あれ、ユウキ?」
現れたのはユウキだった。
依頼を受けて出ているって聞いてたから今日は会えないと思っていたけど、見つけたってことは僕たちを探してたのかな。
「探してくれてたの?」
「うん、ダリアさんから聞いた依頼のことなんだけど」
「あれね。別に急ぎとかじゃないからユウキが出来る時で構わないよ」
「それが……」
言い淀んでしまったので僕たちは首を傾げる。
頭を掻きながら顔を上げたユウキが口を開いた。
「今日は他の冒険者とパーティを組んで魔獣の討伐をしてたんだけど、その時に護衛依頼も一緒にどうかって言われて受けちゃったんだ。明日出発なんだけど、カマドに戻ってくるのも四日か五日くらい掛かりそうで」
「なんだ、そんなことか。戻ってきてからでも全然いいから、お願いできないかな」
「……いいのかい?」
「いいよ。本当に急ぎじゃないんだからね。錬成の自主練習もそうだけど鍛冶の自主練習もあるし、鍛冶なら錬成を教えてもらう時に出来る素材で事足りるもんね」
「何なら、俺が作った素材でも自主練していいぞ」
「本当に! ひゃっほう!」
「ジンくん、変なのー」
僕たちの会話を聞いて唖然としていたユウキだが、徐々に笑顔となり僕の依頼を請け負ってくれた。
「それじゃあ時間は掛かるけど、素材が手に入ったら連絡するね」
「うん、お願い」
「ところでさ、みんなは何をしてたの?」
ユウキの質問に朝からの行動を教えた。
雑貨屋、冒険者ギルド、コフィナでのランチ、そして今はぶらぶらしているんだと。
「もし行くとこがなかったら、ゾラ様行きつけの道具屋まで付き合ってくれないかな?」
「いいけど、何か用事?」
「特に用事ってわけじゃないんだけど、前に行った時に
「……あの魔法石か。ねぇユウキ、あの時は僕が魔法で吹っ飛ばしちゃったけど、どうやってポイズンアースを攻略するつもりだったの?」
魔法石は保存された魔法を使用しなければ次の魔法を保存することが出来ない。
毒の沼をどう攻略するつもりだったのか、僕はそれが気になった。
「あー、えっと、特に、考えてなかった」
「……へっ?」
「何かのきっかけで攻略できるタイミングがあればいいなー、くらいにしか考えてなかったんだよね」
「……ユウキくんって、意外に行き当たりばったり?」
ルルがなかなかにきつい言葉を浴びせている。
ユウキも自分の言っていることがあまりにも無計画だと知っているので何も言い返せないようだが。
「まあ、だったらたまたまだけど攻略が出来てよかったね」
「そ、そうだね。空を飛んだことに関しては、もう二度とごめんだけど、あの時は助かったよ」
相当に怖かったみたいだね。一応吹っ飛ばす前に声は掛けてたんだけどな。
でも僕もいきなり吹っ飛ばされたら怖いし、当然といえば当然なのかな。
「それで、新しい魔法はもう保存したの?」
「いや、実はまだなんだ」
「あれ、そうなの?」
「無属性しか持ってないから保存できないんだよね」
「そういうことか。なら僕が保存しようか?」
「……いいのかな?」
「全然構わないよ。あ、でもやり方が分からないから教えてもらえれば」
ただ魔法を使うだけとは限らない。魔法石用の方法があるはずだ。
特に僕の場合は英雄の器のせいで変に威力も高いから、下手をしたら魔法石が壊れるんじゃなかろうか。
「魔法石を両手で覆って、魔法を使うだけだよ。魔法石自体に保存の魔導陣が施されているから出来るんだ」
「威力が高くても大丈夫なもんなのかな?」
「へっ? あっ!」
ユウキも考えていなかったようだ。
ケルベロスをボコボコにした程の威力である、魔法石が無限に魔法を保存出来れば問題ないと思うけど、限界があるのなら気をつけなければいけない。
保存中に暴発、なんてことになれば大惨事だ。
「……道具屋に行くわけだし、ソラリアさんに聞いてみよう」
「……そうだね。保存はいつでも出来るんだし」
「ルルの言う通り、ユウキって行き当たりばったりなんだな」
「あは、あははー」
乾いた笑い声をその場に残して、僕たちはソラリアさんの道具屋へと向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます