道具屋さん、再び
路地を抜けて角を曲がるなど数回、僕たちはソラリアさんの道具屋に到着した。
あの時は話しながら歩いていたので道順なんて分からなかったが、ユウキは帰り道で道順を覚えていたらしく、
僕は全く覚えられなかったので凄いと思う。
「僕の場合は魔法石が気になっていたからね、覚えようとしたからだよ」
ユウキの言葉に納得しながら、僕たちは店内に入った。
「いらっしゃい。おや、ゾラのところの子供たちじゃないか、どうしたんだい?」
実際のところユウキは『神の槌』ではないので違うのだが、訂正するのも面倒なのでそのまま話を進めることにした。
「セール品を見に来ました。掘り出し物はありますか?」
「掘り出し物は自分で見つけるものだよ。ゆっくり見ていきなさい」
「「「「はーい!」」」」
元気よく返事をして、僕たちはセール品が山積みされている棚に向かった。
以前と同じで乱雑に積み重なったセール品を一つずつ確認しながら戻していく。
一つ一つに付けられた説明書きを読んでいると、中には何故? と思ってしまう商品もあった。
『不良品ポーション:調合時に不純物が混ざりました。効果はあまり期待できません。小銅貨一枚』
『置き時計:何が原因か分かりませんが、よく止まります。小銅貨一枚』
『短剣:錆びてます。磨いてからお使いください。大銅貨一枚』
誰が買うんだよ! とツッコミどころ満載である。
魔法石のような掘り出し物はなさそうだなぁ、と思っているとユウキが声を上げた。
「あっ! これって、
「嘘! だとしたら凄いよ!」
「魔法剣? 何それ、カズチ分かる?」
「いや、俺も分からないな」
名前だけ聞くとなんか格好いい。
きっと魔法石と同じような物、魔法が組み込まれた剣なのだろう。
だけどセール品である。きっとろくでもない魔法が組み込まれているんだろうな。
『魔法名:ラストエッジ、効果:全能力を上乗せした無属性魔法を放つ、補足:使用すると魔力枯渇に追い込まれるので使用時注意! 大銅貨一枚』
……凄いけど、使い所難しすぎないか?
一回使ったら魔力枯渇って、気を失って無防備になるってことよね。
あっ、だからラストエッジなのか。
「これって、使えるの?」
「うーん、どうだろう」
「パーティじゃないと使えないだろ」
「一人で魔力枯渇したら何もできないもんね」
「でも、今度の依頼はパーティだし持っててもいいかも」
ちょっと、衝動買いし過ぎじゃないかな! 大銅貨一枚だよ! 大人の給料一カ月分だよ!
「ユウキの場合はなくても大丈夫じゃないかな? あ、これも上書き出来るとか?」
「魔法剣は上書き出来ないよ。魔導陣が刻み込まれているから一つしか組み込めないんだ」
「……だったら、いらないんじゃないの?」
「だけど、やっぱりこれも貴重なんだよね。大銅貨一枚で買えるならもの凄くお買い得なんだよ!」
声を大にして訴えるユウキに若干引きながらも、パーティであれば隠し玉を持っておくのは悪くないかもしれない。
冒険者であれば大銅貨一枚で隠し玉を手に入れられるなら……いいのかな?
「でも、今は手持ちが少ないからなぁ……うーん、悩む」
「いや、手持ちがないなら諦めた方がいいんじゃないの?」
「おやおや、だったら中銅貨一枚でもいいよ」
「えっ! ほ、ほほほ、本当ですか!」
「ちょっと、ソラリアさん! それっていいんですか?」
ソラリアさんの突然の一言にユウキは歓喜し、僕は驚きの声を上げた。
だって、大銅貨一枚は中銅貨十枚分である。そんな値下げ聞いたことないよ。
「ほほほ、セール品じゃからの。いくらでもいいんじゃよ」
「いくらでもって、ダメでしょ」
「ゾラの知り合いじゃからいいんじゃよ」
「……本当に、いいんですか?」
少し落ち着いてきたユウキが改めてソラリアさんに確認を取る。
ソラリアさんは笑顔で頷いた。
「ここに置かれているだけではこの剣も可哀想じゃからの。使う機会はない方がいいんじゃが、その時が来たら使ってやってくれ」
「はい!」
ユウキとソラリアさんが納得しているなら問題ないのだろう。
中銅貨一枚かぁ。まだお金も余っているし、僕も何か見つけられないだろうか。
「他にも何かあるか見てみよう!」
「そうだね!」
僕の言葉にユウキがやる気になってセール品を見始めたのだが、結局魔法剣以外に掘り出し物を見つけることは出来なかった。
「もしよければ少し雑談していかんか? あまり客も込んで暇じゃからの」
ということで僕たちはソラリアさんと雑談することにした。
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