ただいま、カマド

 特に大きな問題もなく道程を消化した僕たちは、予定よりも早くカマドに到着した。

 護衛をしてくれた面々はそのまま冒険者ギルドへ向かい、ついでにユウキとフローラさんの推薦を進言するのだとか。

 道中もずっと恐縮していた二人だったが、いつかは中級に上がるのだから早い方がいいと僕が言うと、ようやく納得してくれた。


 本部に戻った僕とガーレッドとソニンさんは早速出迎えを受けた。

 事務室からホームズさんが顔を出し、次の納品の為にたまたま事務室にいたカズチは飛び出してきた。


「ジン、副棟梁! おかえりなさい」

「ピキャーキャーン!」

「ガーレッドもおかえり!」


 鳴き声に反応してカズチは鞄から顔を出していたガーレッドの頭を撫でながらそう口にしてくれた。


「ただいま、カズチ」

「私の留守でも錬成に励んでいましたか?」

「はい! その、棟梁にお願いして、魔獣素材の錬成を練習していました!」

「……と、棟梁にですか?」

「はい!」


 おぉ、それは凄いところにお願いしたなぁ。

 ……って、それを僕が言うのはお門違いか。ゾラさんとソニンさんが師匠の僕は二人から教えてもらっていたわけだし。

 というか、ソニンさんの驚いた顔なんて久しぶりに見たかもしれない。


「……まさか、カズチにまで驚かされる日が来るなんてね」

「……あの、ダメでしたか?」


 心配そうに聞いてきたカズチを見ながら、ソニンさんは優しくその頭を撫でた。


「ダメなわけないでしょう。では、明日はカズチがどれだけできるようになったのかを見せてもらいましょうか」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ……あぁ、この二人のやり取りを見ていると、カマドに戻ってきたんだなぁとしみじみ思うよ。


「あっ! そうそう、カズチ。これ、お土産」

「お土産? ……おぉ、これって、錬成素材じゃないか! しかも……えっ、ちょっと待て……ぜ、全属性?」

「うん! この方がやる気出るだろう?」

「……お前、やり過ぎだろう!」

「そうかな? そうそう、ヒューゴログスとアクアジェルが個人的に余ってるから、欲しかったら言ってね!」

「……」


 ……あ、あれ? なんでそこで黙っちゃうかな?


「……はぁ。まあ、ジンだからな」

「えっと、そう、だね。僕だからねー」

「……まあ、嬉しかったのは間違いないし、ありがとうな」

「う、うん! よかったー、嬉しくないのかと思ったよ!」

「嬉しいんだけど、お返しができないんだよなぁ」

「いらないから! これは僕の気持ち、お土産なんだからさ!」

「まあ、そういうことにしておくよ」


 最後は笑いながらそう言ってくれた。

 ……本当にただのお土産なんだけどなぁ。


 お土産を受け取ったカズチはソニンさんと一緒に移動したので、僕はホームズさんに声を掛けた。


「おかえりなさい、コープスさん」

「ただいま戻りました。ホームズさんにもお土産をと思ったんですけど、ユウキが先に買っちゃったんですよね」

「ふふふ、私は良い弟子に恵まれましたね」

「なので、僕からはカミラさんとノーアさんにお土産です」


 言いながら僕は椅子に座りながらこちらを見ていた二人にも声を掛けた。


「うわ~、嬉しいです~!」

「わ、私たちにですか?」

「ホームズさんの負担を軽くしてくれている二人に感謝を込めてです」


 ホームズさんに許可を貰い事務室に入ると、カミラさんには黄色の鉱石、ノーアさんには緑色の鉱石でできた花の置物を手渡した。


「いつもありがとうございます」

「ノーアちゃんとお揃いですね~」

「とても綺麗な花ですね……コープス様、ありがとうございます」

「これからもよろしくお願いしますね」

「本来は私がやらなければならないことを、コープスさんにやられてしまいましたね」

「いやいや、これはあくまでもお土産ですから」


 苦笑しているホームズさんに、僕は笑いながらそう答えた。


「そうそう、魔獣素材の方はどうだったんですか?」

「あっ! 完璧です、ヴァジュリアの牙も確保できましたし、たまたま現れたヒュポガリオスの素材も手に入りましたしね」

「……ラ、ラトワカンに、ヒュポガリオスが現れたのですか?」

「はい。なんだか変な道具がありまして――」


 そこで僕は魔獣を引き寄せる道具のことを説明した。

 ホームズさんは顎に手を当てて考え込んでいたのだが、すぐに我に返って僕に笑みを浮かべた。


「大変でしたね。まあ、その件に関してはグリノワさんに任せれば問題はないでしょう。コープスさんは、ゆっくりと休んでください」

「そうですね、ありがとうございます」


 カミラさんとノーアさんが頭を下げてくれたので、僕は手を振りながら事務室を後にした。

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