一般スキル

 次に確認がされたのは一般スキルだ。

 本来なら一般スキルから確認するのだが、僕の興奮具合を見て固有スキルから説明したらしい。

 ……なんだかすみませんでした。


「しかし、何度見ても凄いのう」

「それに、今回は多くのスキルが上がっていますね」


 ゾラさんとソニンさんの言葉に、他の面々はどうなっているのかが気になるようで、二人を凝視している。


「とりあえず、火、水、土、風、無属性が上がっておる」

「あっ! 本当だ。これで闇以外は2以上になりましたね」


 土属性と風属性が2、火属性が3、水属性と無属性が4に上がった。

 今回上がらなかった木属性と光属性が2なので、闇属性だけが1である。

 この数字を聞いて、他の面々も飽きれ顔だ。


「……普通、複数属性を持っていても全てがまんべんなく上がることはないぞ?」

「そうなんですか?」

「意識して上げてるならまだしも、小僧は鍛冶師だろう? 必要ないスキルは低いのが普通だ」

「それなら、闇属性は低いから普通ということですね」

「……もういいか」


 ヴォルドさんが何かを諦めたよ! 僕はまだ何もしてないのに!


「しかし、水と無属性が4とは……数年後には、私よりも強くなっていそうですね」

「いやいや、あり得ませんから! ホームズさんよりも強いとか、無理ですからね!」


 こ、怖いことを言うな、この人は。


「しかしホームズの言う通りじゃ。このままいけば、いずれ儂やソニンすらも越えていきそうじゃなぁ」

「本人に自覚がないところが怖いですね」

「……みんな、酷い」


 僕って、そんなに変な存在でしょうか。

 ……いやまあ、英雄の器を持ってる時点で変なのは自覚してるけど、ここまで言わなくても。


「スキルが上がって落ち込むのも小僧くらいじゃろうな」

「その事で落ち込んでいる訳じゃありませんよ! 皆さんの扱いに落ち込んでるんです!」


 僕の憤慨を見て、ゾラさんは嘆息を漏らしている。

 嘆息したいのは僕の方なんですけど!


「これで小僧のスキルの鑑定は終わりじゃな」

「もうこれ以上驚くことはないと思っていたが、小僧は人を驚かすことに事欠かないな」

「僕はそんなこと望んでませんけどね!」

「ところでじゃ、ヴォルド」

「お、俺ですか?」


 突然ゾラさんに声を掛けられたヴォルドさんが驚きの声を上げる。


「その背負っておるのが小僧が打った剣かのう?」

「そうです」

「……一度見せてくれんか?」


 ゾラさんの表情は真剣そのもので、ヴォルドさんだけではなく、黒羅刀こくらとうを打った僕も不思議と緊張してしまう。

 無言のまま頷いたヴォルドさんは、黒羅刀をゾラさんに手渡す。


「重いですよ」

「うおっ! ……これは相当重いのう。そして、素晴らしい出来じゃ」

「でしょでしょ?」


 僕の言葉を受けてか、ソニンさんも黒羅刀を覗き込んでいる。


「……ゾラ様、これは」

「……うむ。まだ早いとは思うが、これだけの物を打たれては仕方あるまい」


 ……あ、あれ? なんだか話が不穏な方向に向かってませんか?

 何か悪いことでもしてしまっただろうか。


「小僧」

「は、はい!」

「……卒業じゃ」

「……えっ?」


 卒業って、何を卒業なんでしょうか? まさか、『神の槌』を出ていけとか言いませんよね!


「コープス君、あなたは見習いから一人前の鍛冶師になります」

「一人前の、鍛冶師? えっ、でも僕はまだ分からないことの方が多いんですよ? 冗談ですよね、ゾラさん、ソニンさん?」


 鍛冶を初めてまだ数ヶ月しか経っていない。

 ゾラさんやソニンさんからはまだまだ教えてもらわないといけないことが多いのだから、こんなにも早く見習い卒業だなんて。


「本当じゃ。別に『神の槌』を出ろとは言っておらんぞ?」

「そうですけど……不安です」

「そう言うでない。何かあれば相談には乗るし、それに卒業は鍛冶師としてだけじゃ。錬成はまだまだソニンが教えてくれるぞ」

「もちろんです。鍛冶と比べて安定性が低いですからね。これからも厳しく教えていきますよ」

「そうしてください!」


 そうじゃないと不安で押し潰されそうです!


「儂はてっきり喜ぶものと思っていたがのう」

「自信がついてからならいいんですけど、まだまだ知らないことばかりですから、やっぱり不安になりますよ」


 鍛冶や錬成だけではない。

 この世界についても分からないことばかりで、不安になることは多いのだ。

 早く一人前になりたいと、大草原を見て思ったものの、さすがに早過ぎるよ。


「見習い卒業に伴って、鍛冶部屋の使用は自由になるぞ」

「はっ! ……今、なんて言いました?」


 ちょっと、今さらりと重大発言をしませんでしたか? しましたよね!


「くくくっ、驚いておるのう。鍛冶部屋を自由に使っていいと言ったんじゃ」

「……ひゃっほー! 嘘じゃないですよね、本当ですよね!」

「本当ですよ。ですが、ちゃんと食事には出てくること、それに引きこもらずにちゃんと部屋から出てくること。それが確認できなければ、部屋を潰しますからね?」

「ちゃんと出てきます!」


 ソ、ソニンさんはいちいち怖いんですよ! 僕ってそんなに信用ないんですかね!


「まあ、見習いを卒業したからといって小僧が変わるとも思わんがな」

「そうですね」

「ヴォルドはどう思いますか?」

「短い付き合いだが……そうだろうな」


 僕の印象とやらを、一人ずつから聞いてみたいものですね。

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