感謝と帰宅時の騒動

 デザインもさることながら、出来上がった実物を見ると素晴らしさが倍増である。

 上下左右から眺め、窓から差し込む光に透かせてみると、赤いハートに反射して美しい光が拡散する。

 それだけでも見惚れてしまうが、外枠の青が中心の赤の色合いを鮮やかにしているのがはっきりと見て取れる。


「うわあっ! 凄いですよ、ロット様!」

「うんうん! カズチ君も凄いね!」


 女性陣の興奮具合が凄まじい。

 アクセサリーとロットさんとカズチを順繰りに見ながらキャーキャーと騒いでいる。


「どうですか、ロットさん?」


 出来上がりを確認する為、カズチが汗を拭きながら口を開く。

 質問されたロットさんは、アクセサリーからゆっくりと視線をカズチに向けて、女性陣よりも興奮した声音で答えた。


「か、完璧だよ、カズチ君! さすがは『神の槌』にいた錬成師と言うべきなのかな……いや、これはカズチ君の努力の結果なんだよね。本当に、凄いよ」

「あ、ありがとう、ございます」


 ロットさんからの最上級の褒め言葉に、カズチは視線を逸らして頬を掻く。

 ……ふふふ、照れているんだね。一流の錬成師とは言え、まだまだ子供だなぁ。


「……変なこと考えるなよ、ジン」

「えっ? 僕は何も考えてないよ? ……えへへー」

「カズチ君、照れてるの?」

「て、照れてないよ!」


 ……ルルはズバッと言いますなぁ。


「王都の錬成師も凄腕が集まっているはずなんだけど、これほどの出来は見た事がない。僕が贔屓にしている錬成師よりも凄腕だったなんて」

「王都の錬成師よりも上って、カズチ、本当に凄いよ!」

「ユウキまで変な事を言うなって」

「いや、事実だよ、カズチ君。このまま王都で店を構えても、トップになれるんじゃないかな」


 日ごろから錬成師と仕事をしているロットさんが言うのだから、間違いではないのだろう。

 真っすぐな称賛をあまり受けた事がないのか、カズチはさらに照れて手が頬から頭に移動して掻き乱している。


「落ち着きなよ、カズチ」

「お前のせいだからな、ジン!」


 えっ! 僕は口にしてないんですけど!


「……ところで、ロットさん。それはどういう形にして彼女さんにプレゼントするんですか? 見たところだと、髪留めとか?」

「あぁ、その通りだよ。バレッタの部分はできているから、後はこれをくっつけるだけなんだ」


 そう口にしたロットさんは、庭に造られていた仕事部屋に向かう。

 戻ってきた時には、その手にバレッタが握られていた。


「あの、私たちが先に完成した作品を見てもいいんでしょうか?」

「あっ! そうだね、彼女さんが最初の方がいいんじゃないですか、ロットさん?」


 女性の感性というか、やっぱり特別な物は自分が最初に見たいのだろう。

 だけど、ロットさんは首を横に振って笑みを浮かべた。


「これは、君たちがいなければ完成しなかった物なんだ。他の職人に頼んでいたら、そこで見られているわけだからね。それなら、みんなで完成を祝ってほしいかな」


 その言葉に嘘はないと、その表情が物語っている。

 ならばと僕たちはロットさんの手元に視線を集中させて、その完成を見守ることにした。


「それじゃあ、嵌めるね」


 カズチの錬成は、バレッタを見ていなかったにもかかわらず窪みに『カチリ』と音を立てて嵌った。

 それだけ、カズチの錬成が正確だったという証拠にもなる。

 とても小さく、アクセサリーの邪魔をしないよう作られている。

 これで髪を留めれば、頭に女性たちの視線が集まるのは確実だろう。


「……これ、量産する予定はあるんですか?」

「ないよ。だって、僕から彼女に贈る唯一の作品なんだからね」

「……難しいんじゃないですか?」

「そうかな?」


 ロットさんは首を傾げているが、これだけ素晴らしい作品である。

 オシャレに敏感な女性が目にしたら、情報を仕入れようと躍起になるだろう。

 それくらい、この作品は素晴らしいのだ。


「ここまでとは言わなくても、近い作品は用意していた方がいいと思いますよ?」

「そうだね。これなら、絶対に売れるだろうし」

「贔屓の錬成師がいるんだったら、お願いしてみたらどうですか?」


 僕の言葉にユウキとカズチも同意を示す。


「そうですよ! 私だったらすぐにでも欲しいです!」

「私もです!」


 フローラさんとルルも同じ意見のようで、ロットさんも女性からも助言とあっては無視する事はできなかったようだ。


「うーん……それじゃあ、似たようなデザインで、簡易化したものを考えてみようかな」


 僕たちは何度も頷き、ロットさんの家を後にする。

 ロットさんはと言うと、家を出るまで何度もお礼を口にしてくれ、外に出てからも僕たちが見えなくなるまで手を振り続けてくれた。


※※※※

【宣伝マラソン!】

 2020/12/04(金)より、最新4巻発売中!

 宣伝マラソン最終日!!

 カクヨムの読者様はご存知かと思いますが、書籍は紙の本の売上で続刊が決まります。

 また、初動がとても大事であり、発売から二週間までがデッドラインと言えるでしょう。

 このご時世で外に出るのも大変かと思いますが、書店に足を運ぶ機会があれば、一度手に取っていただけると嬉しいです!


■タイトル:異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!4

■ISBN:9784040738307

■イラスト:椎名優先生

■発売日:2020/12/04(金)


 ぜひとも、よろしくお願いいたします!!

※※※※

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