ラドワニ帰還と鉱石店

 ユウキと冒険者の話が終わり戻ってくると、マリベルさんが何度も頭を下げていた。


「いえ、これくらいは僕の仕事だと思っていますから」


 こちらから何かお願いをするならばリーダーが頭を下げるのが当然だが、あちらからお願いをしてきたのだからわざわざリーダーが対応する必要はないとユウキは言った。


「それでも、最初に話をしていたのは私だったわけだし、本当にごめんね」

「本当に問題ありませんから」

「ユウキ、僕からもごめんね。それと、ありがとう」


 ユウキが僕を庇って嘘をついてくれたのは一目瞭然だ。

 僕からは謝罪とお礼を口にしたのだが、ユウキからは苦笑いが返ってきた。


「あちらのリーダーは何か察していたみたいだけどね」

「そうなの?」

「うん。魔法石マジックストーンに魔法が保存できるのは当然だけど、あれだけの規模の魔法が保存できるとは考えにくいしね。でも、切り札を簡単に暴露する冒険者もそうそういないわけだし、察していたけど特に言及されることはなかったからさ」

「そういえばジン君、あの時の魔法ってなんだったの? 本当に、マジで上級冒険者でも、それこそ通り名持ちでもあんなこと普通はできないんだけど!」

「これ、マリベル! ユウキが言ったことをお主が破ってどうするんじゃ!」


 グリノワさんの言う通りである。

 今はまだ言えないけれど、いつの日か言える時がきたら僕と付き合いのあった人には真っ先に伝えよう。そして、お詫びに僕が打った物を渡していきたいかな。


「でも、ジン君は冒険者じゃ――」

「マリベル? いい加減にしないと、私が怒りますよ?」

「な、なんでケヒートさんが――」

「コープス君は『神の槌』の大事な鍛冶師です。これ以上迷惑を掛けるようなら、金輪際あなたには依頼をしませんからね!」

「そ、そんな~! う、嘘だから、ジン君も何も言わないでね! 本当に、マジで!」


 馬車に戻っていくソニンさんを泣きそうな声で追い掛けていくマリベルさん。

 その姿を見た僕とユウキは顔を見合わせて笑ってしまった。


 ※※※※


 その後はラトワカンに向かう途中に野営をした場所と同じところで野営を行ったのだが、野営地が荒れているということはなかった。

 使われた形跡はあったが、おそらく通り過ぎた冒険者パーティが使ったのだろう。


 道中何事もなく戻ってきた僕たちは、自由時間ということでそれぞれ別行動をすることになった。


「やったー! それじゃあ私は家に帰ってゆっくりと――」

「ばかもん! お主は冒険者ギルドにヒュポガリオスの件を報告する義務があるじゃろうが!」

「えぇー! だって、他の冒険者が調査に言ってるし、そっちの報告があればいいじゃないですかー」

「そんなわけないじゃろうが! ほれ、儂も鉱山について報告があるから一緒に行ってやるわい!」

「えっ、ちょっと、ゴルドゥフさん! いーやーだーーーーっ!」


 マリベルさんの首根っこを掴んで歩き出したグリノワさん。

 悲鳴だけを残して雑踏に消えてしまった二人を見届けた僕たちは苦笑するしかなかった。


「さて、三人はどうするのですか?」


 ソニンさんの問い掛けに、僕は行きたいところがあると告げた。


「僕は行きたいところがあるんだけど……」

「そういうと思ってたよ」

「えっ、何かあるんですか?」


 ユウキは僕と行動を共にしていたから分かるだろうが、フローラさんはグリノワさんと一緒だったからね。


「リディアさんの鉱石店だね」

「うん。鉱石も手に入ったし、売ってお小遣いになればと思ったんだ」

「鉱石店ですか? ……私も行ってみたいです!」

「よかった。それじゃあ行こうよ! ソニンさんはどうしますか?」

「私もご一緒しましょう。それとコープス君、その後に時間があれば私の弟子のところに行きませんか?」

「あっ! 行きたいです!」

「うふふ、それではまずは鉱石店に行きましょうか」


 僕たちは戻ってきたその足でリディアさんの鉱石店へと向かった。


「――いらっしゃいませー! って、あれ、君たちはこの前の……確かジン君とユウキ君だっけ?」

「はい。名前、覚えててくれたんですね、リディアさん」

「あはは。君たちはカマドからのお客さんだったからね、覚えてるわよ。それと、今日は女性のお客さんもいるのね」

「は、初めまして、冒険者をしているフローラと言います」

「私はカマドで神の槌の副棟梁をしています、ソニンと申します」

「フローラちゃんに、神の槌の……って、神の槌ですって!?」


 目を丸くして驚いているリディアさん。

 ……あー、そっか。僕が神の槌に所属しているってことも伝えてなかったんだっけ。


「そ、それも、副棟梁って……ソニンさん……ソニン・ケヒートさんですか!」

「え、えぇ、そうですね」

「あ、あとでサインを頂けませんか!」

「あの、その、落ち着いていただけませんか?」

「はっ! ……も、申し訳ありません」


 顔を真っ赤にして俯いてしまったリディアさんだけど、それよりもソニンさんってとても有名人なんだな。

 別の都市でも名前が伝わっているだなんて、素材を扱うお店からしたらそりゃサインの一つや二つは欲しいに決まっているよね。


「そ、それで、今日はどうしたんですか?」

「用事があるのは私ではなく、コープス君の方です」

「ジン君? もしかして、ラトワカンで鉱石が採れたのかしら?」

「はい、これを見てほしいんですけど」


 そう言って僕は魔法鞄マジックパックからヒューゴログスとアクアジェルを一つずつ取り出した。

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