時間切れ

 吹き飛ばされたユウキを見て、俺はその場に駆けつけようと無属性魔法を発動する--が。


『グルルルルゥゥ……』


 話をしている間に近づいて来たケルベロスが目の前に現れた。

 何故、早すぎないか? 毒の沼は……あれ?


「毒の沼が、ない?」

(--あれって魔法石マジックストーンだったよな。解除の方法を満たしたんじゃないか?)


 毒の沼の解除方法は確か--。


『魔法名:ポイズンアース、効果:使用者周囲の地面が毒の沼になる。解除するには使用者が毒の沼を通って沼外に出る必要あり。補足:猛毒なので注意必要!』


「……ユウキが沼外に出たからか。でも沼を通ってはいないよな?」

(--……ってことになるんじゃないか?)


 ……何だよその言葉遊びは!


『ガオオオオオオォォッ!』


 なんか軽くイラってしたけどそんなことを言ってる場合じゃなかったんだ!


(--危ないぞ! 早く逃げろ!)

「言われなくても分かってるよ!」


 俺はケルベロスの横を抜けてユウキのところに行こうと考えたがそう上手くはいかないものだ。

 ブレスを吐きながら鋭い爪と牙が襲い掛かり、自由に動き回る蛇にも睨まれて後退するのが精一杯だ。


「はぁ、はぁ。ゲームだと、簡単操作で、逃げられるのになぁ」

(--げいむって、何だ?)

「ピキュー?」

「……何でもない」


 ここでそんなことを言っても何にもならない。

 これだけ逃げ回れていることも奇跡なんだ、何とか生き残ってまだまだ色んなものを作っていくんだ!


「エジル、なんか助言はないの?」

(--おっ! 君から話し掛けてくれるなんて嬉しいな!)

「無駄話はいいから、なんかないの?」

(--冷たいなぁ。まあ、君が死んだら今後体を借りる機会もなくなるからね)


 いや、貸すつもりは毛頭ないんだが。


(--とりあえずケルベロスの足止めが必要だ……木属性魔法と……性魔法で…………)

「おい、どうした? 聞こえないぞー」

(--あー、時間切れ……まあ、君……何とかなるだろう)

「ちょっと待て、時間切れとか聞いてないんですけど! それこそ時間止めろよ!」

(--頑張ってねー!)


 ……何で最後だけはっきり聞こえるんだよ!

 くそったれエジルはもういい、何とか自分一人で考えて切り抜かなきゃいけないんだ。


「ピキュー! ピキュキュー!」

「ガーレッド……そうだな、お前もいたね」

「ピキャ!」


 俺と、ガーレッドの二人でこの場を乗り切るんだ。

 そう考えると意外にもやれる気がしてきた。


「ブレスは任せてもいいかな?」

「ピキャ!」


 元気よく頷いてくれたよ、可愛らしいなぁ。

 それならば俺もガーレッドの期待に応えるしかない。

 ユウキからポーションを貰う前のようにフラフラしてきたけどそれは後回しだ、全力で駆け抜けて全力で逃げてやる。

 そう決意した矢先に二本のブレスが吐き出された。


「ピーギャー!」


 聞いたことのない遠吠えを出しながらガーレッドがブレスを飲み込んでいく。

 だが、今回のブレスは今までのブレスと異なっていた。


「範囲が、広い!」


 今までの直線的なブレスではなく、広範囲を焼き尽くすブレスはガーレッドだけでは食べ尽くせない。

 ……まあ、食べる方がおかしいんだけどね。


「あつっ! あっつぅっ! あ……つくない?」


 ブレスが皮膚を焼き爛れるかと思ったが、再び風が吹き黒炎を遮ってくれた。


「風のヴェール! これならやりようはあるか」


 ブレスの間断に場所を変えながらエジルが言っていたことを思い出す。

 木属性と何かの属性を使えば足止めできるみたいなことを言っていたけど、まずは木属性について考えるか。

 俺が出来たのは木の成長を促進させること。木を育てて動きを阻害するか? いや、それくらいならへし折られて終わりだろう。多少の時間稼ぎは出来ると思うけどすぐに追いつかれてしまう。

 他にできることはあるだろうか。促進ではなく、逆はどうだろう--成長の後退、枯らすのだ。

 ……まあ、枯らしたからといってそれでどうなるわけでもない。

 やはり大事なポイントはもう一つの属性なのか?


『グルアアアアッ!』

「おわっと! さすがに爪とか牙はやばいよねぇ」


 距離を開けて再び思考の海に沈む。

 促進もダメ、後退もダメ、それなら他は何だろう。

 一つがダメなら二つではどうだ。

 促進と後退と交互に、またはその逆。

 ……んっ? そういえば魔法の練習をしていた時に落とし穴作ったな、土属性魔法で。

 最初は草木の根が絡まってて大変だったけど、枯らしてからなら簡単に作れるんじゃないか?

 それに、落とした後さらに周囲の木の成長を促進させれば根が生えて出にくくなるんじゃないか?


「……まさか、正解は落とし穴ってか?」

「ピキュー?」


 そうなの? って言われても俺にも分からないよ。

 これが答えかは分からないが、逃げながら考えていたのですでに周囲に木々が生い茂った場所まで来ている、試すにも絶好の場所だろう。


「まあ、何もないよりはましか。ユウキも心配だし、やってみよう」

「ピッピキャ!」


 ガーレッドもそうしようって言ってくれてるし、やってやろうじゃないか。

 ……そういえば後退ってどうやるんだ?

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