ユウキ救出
俺は真っ白の世界から時間が止まっている現実に戻ってきたようだ。
目の前には蹲るユウキとそちらに視線を向けるケルベロス。どちらもピタリと動きを止めている姿は異様だった。
(--いいか? 今から時間が動き出す。それとともに彼を助けるための方法を教えるからその通りに動いてくれ)
「先に教えてくれてもいいんだけど」
(--それだと俺がつまらん)
……こいつ、マジでムカつく。効率ってもんを分かってないな。
(--それじゃあ、行くぞー)
「……了解」
エジルがそう言った直後、風の音が聞こえてきたと思えば、ケルベロスが毒の沼を進む音とうめき声が耳に届き時間が戻ったことを理解した。
(--まずはケルベロスの意識をこっちに向けるぞ。毒の沼の水を使って水属性魔法を使え)
「だから、何で上から目線なんだよ!」
「ピキュー?」
そうか、ガーレッドにはエジルの声が聞こえないのか。
しかしこいつの言い方はムカつくけど、その発想はなかった。
水属性魔法だけれど毒の沼の水を使えば毒水で攻撃できるわけだから非常にうざいだろう。
ダメージだってあるからこっちを無視できなくなるはずだ。
「そうだなぁ……ミニ水爆弾!」
(--なんだそれ?)
大きな水爆弾だとユウキも毒水をかぶっちゃうからな、小さい塊をぶつけてやろう。
毒の沼から水玉が浮かび上がるのをイメージする。……この水、ドロドロだなぁ。
おっ、とりあえず一つが完成したな。
「……一発いっとくか」
(--やれー、やっちまえー)
エジルは無視して俺はこぶし大のミニ水爆弾をケルベロス目掛けて撃ち出した。
とりあえず、全力で。
--ゴウッ!
「えっ?」
(--あれ?)
--ドゴオオォォン!
『ギャワオオオオオオンッ!』
……な、何だよ今の威力! 明らかにおかしなことが起こってるよね!
「ちょっと、エジル! 何かしただろ!」
(--ちょっと待て、俺は何もしてないぞ! 君こそどんなイメージでミニ水爆弾とやらを飛ばしたんだ!)
「えっ、拳銃みたいな、大砲みたいな?」
(--け、けんじゅうってなんだ? それよりも大砲って、それでも速度や威力が桁違いだろ!)
それはあんたの願望のせいだろうが!
首を傾げる可愛らしいガーレッドはさておき、俺とエジルが言い合っているとケルベロスがこちらを睨みつけてきた。
(--と、とりあえずこっちに意識を向けさせることには成功したんだから問題ないだろう!)
「答えになってないけどな!」
顔をこちらに向けたケルベロスは毒の沼をゆっくりと進み近づいてくる。
この後はどうするのかと思っているとエジルから指示が出た。
(--今度は風属性魔法で彼を巻き上げて毒の沼の外に運んでやれ)
「分かった、どうやってやるんだ?」
(--えっ、だから風で巻き上げて)
「だからそれはどうやるんだって」
(--……イメージしろ!)
「お前も説明下手かよ!」
何で説明下手ばかりが俺の周りには集まるんだよ!
えぇっと、巻き上げる巻き上げる……竜巻か? でもあんまり規模を大きくしたらユウキが吹っ飛んじゃうから威力に注意しないといけなくて--。
(--あっ、ブレス)
「ブレスとか今はどうでも……って、どわあっ!」
エジルの呟きで俺は間一髪ブレスを回避することができた。
やっべぇ、考え事してたらブレスが吐き出されるしどうすりゃいいんだよ。
「ピキュー! ピッピキャー!」
「ガーレッド……あっ! ガーレッド、次にブレスが来たら食べてくれるかな?」
「ピキャ! ピキャキャー!」
(--んっ? この霊獣はブレスを食べるのか?)
よし、これでブレス対策はバッチリだ。
ユウキを竜巻で巻き上げるのはいいとして、どうやって毒の沼の外に運ぶかが問題だ。
周囲が沼になったせいで木々は枯れて大きな木も周囲にはない。上に飛ばすだけでは捕まる枝もないので却下だ。
あえて威力を強めて沼の外に飛ばすか? だけど今のユウキの状態で受け身を取れるのかが分からない。ユウキと確認が取れればそれが一番なんだけどなぁ。
(--あっ、またブレス)
「ガーレッド」
「ピキャ!」
吐き出されたブレスをガーレッドが全て飲み込んでいく。この小さな体のどこに入るのかは謎だが今は気にしない。
(--うわー、マジで食べてるよ。凄いな、この霊獣)
当然じゃないか、だってガーレッドなんだもの。
さて、ユウキに受身が取れるのかどうかを確認する方法だけど……単純に大声で確認しようかな。
それにはケルベロスのブレスの音が邪魔なので少し黙ってもらう必要がある。
「……もう一発くらいいっとくか」
俺はミニ水爆弾をこっそりと作り再びケルベロス目掛けて撃ち出す--もちろん全力で。
--ドゴオオオオンッ!
『ギャフン! ゲフンッ! ゲッフンッ!』
あっ、ブレスの途中だからむせちゃったよ。まあ気にしないけど。
静かになったことを確認した俺は大声でユウキに話し掛けた。
「ユウキー! 風属性魔法で巻き上げるけど、受身って取れそうかー!」
「……えっ?」
んっ? 聞こえてなかったのかな。
「風魔法でー! 巻き上げるけどー! 受身取れるかー!」
「……ええぇぇぇぇっ!」
……あっ、単に驚いていただけか。
でも元気そうで何よりである。この分なら問題なさそうだ。
「それじゃあ、行くよー!」
「いや、あの、ちょっと待って--ぎゃああああぁぁっ!」
竜巻はユウキを軽々と巻き上げて沼の外に吹き飛ばしてくれた。
だが、一瞬見えたユウキの表情は蒼白になっていた……気がするだけだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます