事後処理と面倒に巻き込まれる?

 その後、僕たちは事後処理に追われることになった。

 まず、ヤコブに対してはフローラさんにお願いして回復魔法を掛けてもらう。

 巻き込まれただけにしても、僕たちのせいで人死にが出てしまったとなれば面倒になるし、もしかするとライオネル家に迷惑を掛けるかもしれないと考えたのだ。

 フローラさんも同じ考えだったのか、すぐに回復魔法を発動させてくれた。

 一命をとりとめるかどうかは僕たちで判断できないので、できるだけのことをしておく。


 並行して、ユウキと僕は大男たちを縛り上げていた。

 目を覚ました途端に暴れられても困るからだ。

 雇い主であるヤコブが血塗れなのだから、現場を見ていなかったこいつらが襲い掛かってくる可能性だって高いだろう。


「ユ、ユウキ殿! これはいったい!?」


 そこへやって来たのは、事情を知っているからなのか、またしてもバールさんだ。

 ただ、僕とユウキが大男たちを縛り上げているのを見て、バールさんも縛り上げながらの会話になっている。

 この辺り、適応能力が高すぎると思う。


「ヤコブ・バジェットが荒くれ者を伴ってやって来たので、それを鎮圧。ですが、執事だったロン・ロッゾという男がヤコブを背中から一突きして、この状況です」

「ロン・ロッゾ……むむむ、あの男であるかぁ」


 バールさんは、何やら悩ましい表情を浮かべている。


「……もしかして、何かを掴んでいたんですか?」

「――その通りだ、ユウキ」


 そこへ追加の衛兵を伴い現れたのは、ライオネル家の長男でありユージェインさんだ。


「ユージェイン兄上!」

「すまないな、ユウキ。それに、友人たちよ」


 むむむ、ライオネル家が出てくる騒動ということは、結構大事なのではないだろうか。

 ……ここは、僕が首を突っ込む場面ではないな。


「それじゃあ、後は皆さんにお任せしてもいいんですか?」

「あぁ、そうだね、ジン君。……詳しい話は、ライオネル家でするとしようか」

「えっ? 兄上、それはどういうことですか?」


 ……うん、雲行きが怪しくなってきた感じだなぁ。


「ここでは人目もあるからね」

「……分かりました、兄上」

「えっと、僕は関係なくないですか?」

「うーん、実はそうでもないんだよねぇ」


 あー、うん。やっぱりそうですか。さっきの話の流れから、そうじゃないかと思っていましたよ。


「というわけで、屋敷で休んでいてくれ。それと……人死にを出さないでくれて、助かったよ」


 ユージェインさんは親しみやすい笑みを浮かべ、その場を任されてくれた。

 立ち上がった僕とユウキは、三人にも声を掛けて歩き出す。

 ……はぁ。キャラバンの最先は、面倒事が振り掛かりそうだ。


 ※※※※


 その後、僕たちはユージェインさんの言葉通りにライオネル家へと戻り、ゆっくりと休むことにした。

 特にカズチは二連続の錬成を行ったので、目に見えなくとも疲労は溜まっていたのかもしれない。

 そして、ルルもフローラさんに付き添われて部屋へと戻っていった。

 荒事になれていない二人には、あの場面を見ただけでも過度な精神的疲労があったことだろう。

 ……あれ? 僕も荒事にはかかわりない人間だと思うんだけど、自分でその枠組みから外してしまっていた。


「……ダメだなぁ」

「ビギャー?」

「なんでもないよ、ガーレッド」


 僕は鍛冶師だと思っていても、過去の出来事を消せるわけではない。

 だからこそバールさんも僕のことを知っているわけだし、ライオネル家でお世話になることができている。

 そして、血を見ても平静を保つことができたのだ。

 これからは普通の鍛冶師、生産に従事していきたいと思っていても、そうならないのが僕ということなのだろう。


「……ソラリアさんには、どれだけ先の未来が見えていたんだろうなぁ」


 詳しくは教えてもらえなかったが、世界を変えることができる未来が見えたと言われている。

 もし、その流れの中にいるとすれば、今日のような光景は日常茶飯事になるかもしれない。


「ガーレッドやみんなを、危険な目には遭わせたくないんだけどなぁ」

「ビギャ! ビギャギャ―!」

「ガーレッドが僕を守ってくれるの?」

「ビギャン!」


 大きくなってもガーレッドはガーレッドだ。

 頭を僕の胸にこすりつけて、同意を示してくれる。

 力加減も絶妙で、強くもなく弱くもなく、僕が気持ちいいと思える力強さなのだ。


「……ありがとう、ガーレッド。でも、できる限り危険とは離れて生活できればと思うよ」


 優しく頭を撫でながら、僕は部屋の中でそう呟いたのだった。

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