報告と要請
その日の夜、僕たちは晩ご飯の席でユージェインさんから事の詳細を聞くことになった。
僕としては放っておいて欲しいのだが、どうやら僕が関わっていることのようなので無視できなかった。
「最初に伝えておきたいことはロン・ロッゾというヤコブの執事だった男だが……彼は、他国の間者であることが判明しています」
「ということは、バジェット商会自体が他国が作り出した商会だということですか?」
「違うぜ、ユウキ。バジェット商会は利用されたんだよ」
ユウキの疑問に答えたのは、次男のユセフさんだ。
「バジェット商会が変な取引ばかりしていたことで調べていると、ロン・ロッゾが突然出てきやがったんだ」
「おそらく、洗脳の魔導具を使われたんだと思う。でなければ、僕たちの調査をかいくぐっていきなり執事という中核に入り込むことはできないはずだよ」
二人の口調は淡々と語られているが、言葉の端々に悔しさが滲み出ている。
「……ジン君、それに皆さんも。僕たちの調査が詰まってしまい、危険な目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない」
「兄貴の言う通りだ。本当にすまない」
そして、二人は椅子から立ち上がると頭を下げてくれた。
貴族が簡単に頭を下げていいのかと驚きはしたものの、これがライオネル家なのだと思えば納得してしまう。
何せ、当主がユージリオさんだからね。
「いいえ、僕たちも首を突っ込んでしまって、すいませんでした」
「いやいや! ジン君は巻き込まれたんだから、君が謝る必要はどこにもないんだよ!」
「でも、僕たちがヤコブをどうにかしていたら、ここまでの騒動にはならなかったかなって、今なら思えるんですよ」
森の中に放置したり、文句を言いに来た時の対応をレイネさんに頼りっきりになったり、今回の騒動でも結局僕は何もしなかった。
……一応、キャラバンのリーダーなんだけどなぁ。
「終わったことをとやかく言っても意味がない。まずは、他国の間者からジン君たちを守ることを優先して行動することだ」
「……えっ? 僕たちって、狙われているんですか?」
驚きの事実だったのだが、どうやら気づいていなかったのは僕だけだったようで、全員の視線がこちらに集まると、はっきりと分かるくらいに溜息をつかれてしまった。
「とうぜんだよ、ジン」
「っていうか、なんで普通なのかと思ってたら、気づいてなかっただけかよ」
「ジン君、それはさすがにないよ」
「ジン様、鈍感が過ぎますよ?」
「ないわー。それはないわ、ジン君」
「ビギャギャー」
「……ワフ」
……なんか、ごめんなさい。特にガーレッドとフルム、そんな悲しそうな目で僕を見ないでください。
「間者、ロンの正体を知っているジン君たちは、すぐにでも狙われる可能性がある。ライオネル家の警備も強化しているが、もし外出する予定があるなら護衛も付けることにしよう」
「それなら、僕たちは明日にでもベルハウンドを出発した方がいいですか?」
「いいえ、それは悪手よ、ジン君」
「そうなんですか、レイネさん?」
ずっと黙って話を聞いていたレイネさんが、笑みを消して真面目な表情で口を開く。
「おそらくだけど、ロンはベルハウンドの中では孤立しているわ。だけれど、外に出てしまえば別の間者と合流する可能性が出てくるの」
「……そうか。外に出てしまうと、大勢を相手に僕たちだけで戦わないといけなくなるってことですね、母上」
ユウキはそう言うけど、ここでユージリオさんたちに迷惑を掛けられないんだよなぁ。
「我々のことを心配してくれているのであれば、気にしないでくれ。それに、ベルハウンドの救世主であるジン君のためならば、多くの兵士が力を貸してくれるよ」
「きゅ、救世主って、大げさな」
救世主だったり、英雄だったり、むず痒いことこの上ないな。
「まあ、そういうことだから、ジン君が気にすることはないのだよ」
「そ、そういうことでしたら」
「そうそう、ポーラ姉さんにジン君が来ているって話をしたら、会いたがっていたわよ」
「……ポーラ騎士団長が?」
そう言われて、首を傾げて考えてしまう。
オシド近衛隊長なら少しだけ会話をしたことあるけど、ポーラ騎士団長か……うーん、話をした覚えがないんだけどなぁ。
「ふむ……であれば、ポーラ騎士団長に話を付けてみようか」
「えっ! ……ま、まあ、誰か騎士をつけてもらえるのなら、そっちの方がいいのかな?」
……ま、まさか、騎士団長様直々に護衛につくなんてことは……ないよなぁ。
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